判旨
国家公務員の争議行為禁止違反に対する懲戒処分において、人事院勧告の完全凍結という事情は、懲戒権の濫用を判断する際の重要な考慮要素となるが、代償措置が機能を失ったとまで言えない状況で、警告を無視し大規模なストライキを指導した者に対する処分は、裁量権の範囲内として適法である。
問題の所在(論点)
国家公務員法98条2項が禁止する争議行為を行った職員に対する懲戒処分において、代償措置である人事院勧告の凍結という事情が、懲戒権の裁量権濫用の判断にどのような影響を及ぼすか。
規範
公務員に懲戒事由がある場合でも、懲戒権者が考慮すべき事情を考慮せず、または社会通念上著しく妥当を欠く処分をしたときは、裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)として違法となる。特に人事院勧告の実施を求めるストライキの場合、人事院勧告の完全凍結という事態は、裁量権の行使にあたって当然に考慮されるべき重要な事情である。
重要事実
全農林労働組合の中央執行委員であった上告人らは、昭和57年度の人事院勧告が完全凍結されたことを受け、その完全実施を求めて大規模なストライキを指導・実施した。当局は事前に警告を発していたが、上告人らはこれを無視して積極的に関与した。これに対し、当局が上告人らに対して懲戒処分を下したため、上告人らが処分の取り消しを求めて提訴した。
あてはめ
まず、人事院勧告の凍結という異例の事態は、懲戒権の行使において慎重に考慮されるべき事情である。しかし、本件においては、(1)代償措置がその機能を完全に失っていたとはいえないこと、(2)当局の事前の警告を無視して極めて大規模にストライキが実施されたこと、(3)上告人らが組合幹部として指導的役割を果たし、刑事罰の対象となり得るほど積極的に関与したこと、が認められる。これらの事情を総合すれば、本件各処分が社会通念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件各懲戒処分は、考慮すべき事情を欠いたものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとは認められないため、適法である。
事件番号: 平成7(行ツ)132 / 裁判年月日: 平成12年3月17日 / 結論: 棄却
昭和五七年度の人事院勧告の不実施を契機としてその完全実施等の要求を掲げて行われたストライキに関与したことを理由としてされた農林水産省職員らに対する停職六月ないし三月の各懲戒処分は、右ストライキが当局の事前警告を無視して二度にわたり敢行された大規模なものであり、右職員らが、右ストライキを指令した労働組合の幹部としてその実…
実務上の射程
公務員の争議行為に対する懲戒処分の裁量審査において、「代償措置の機能不全」を処分の不当性を基礎付ける事実として構成する際の指針となる。もっとも、本判決は指導的役割を果たした者への処分を維持しており、処分の妥当性は行為の態様(規模・警告無視・役割)との相関関係で決まることを示唆している。
事件番号: 昭和57(行ツ)179 / 裁判年月日: 昭和62年3月20日 / 結論: 棄却
一 国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員(林野職員)に対し公共企業体等労働関係法一七条一項の規定を適用することは、憲法二八条に違反しない。 二 国有林野事業に従事する現場作業員たる常用作業員及び定期作業員の多数が、D労働組合のストライキ指令に基づき、出勤時から約四時間にわたり組合集会に参加するなどして職場放棄…
事件番号: 平成12(行ツ)186等 / 裁判年月日: 平成12年12月15日
【結論(判旨の要点)】地方公務員法37条1項による争議行為の禁止は憲法28条に違反せず、代償措置が本来の機能を果たしていないと評価されない限り、同禁止規定を前提とした処分は適法である。 第1 事案の概要:上告人ら(地方公務員)は争議行為を行ったが、これに対し地方公務員法37条1項違反を理由とする不利益処分(詳細は判決文…