判旨
短期間の集中訓練期間中の年次有給休暇請求に対し、当該訓練を一部でも欠席することが予定された知識・技能の修得に不足を生じさせる場合は、原則として「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たり、使用者は時季変更権を行使できる。
問題の所在(論点)
集中的な集合訓練期間中の年休請求に対し、使用者が行使した時季変更権が「事業の正常な運営を妨げる場合」として有効といえるか。特に、自習による補完可能性や事後の良好な成績を考慮すべきかが問題となる。
規範
労働基準法39条5項(旧4項)但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるかは、業務の性質や代替要員の確保の難易等を考慮すべきである。特に、短期間の集中的な訓練の場合、一部の欠席が予定された知識・技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成できない結果を招くときは、特段の事情のない限り、時季変更権の行使が認められる。その際、欠席分を自習等で補えるか否かは、使用者が時季変更権を行使する時点での客観的状況により判断すべきであり、労働者の事後の努力や成績を考慮の基礎とすることはできない。
重要事実
通信事業を営む被告(上告人)は、技術革新に対応するため、各職場の代表者を対象とした1か月弱の「ディジタル交換機」の集中訓練を実施した。原告(被上告人)は職場唯一の代表として参加したが、訓練期間中に、重要性が増していた「共通線信号処理」の講義(計6時限)のうち4時限が行われる日に年休を請求した。被告は時季変更権を行使したが、原告は当日の訓練を欠席。被告はこれを無断欠勤としてけん責処分等を行ったため、原告が処分の無効を訴えた。原審は、教科書による自習等で補完可能であるとして時季変更権行使を違法とした。
あてはめ
本件訓練は、高度な知識を短期間で習得させ、その成果を職場に持ち帰らせる目的で実施されており、その性質上、一部の欠席が訓練目的の達成に重大な支障を及ぼす。請求された年休の日は、従来より講義時間が増強された不可欠な内容を含む日であり、欠席による修得不足のおそれが高い。原審が挙げた「自習可能」という点は、講義と同等の効果を保証するものではなく、使用者が行使時に自習を前提とすることもできない。また、事後の試験成績が良好であったとしても、それは行使時に予見不可能な事情であり、行使の適法性を左右しない。したがって、原告が当該知識を既に習得済みであった等の特段の事情がない限り、時季変更権行使は適法といえる。
結論
事件番号: 平成8(オ)1026 / 裁判年月日: 平成12年3月31日 / 結論: 破棄差戻
事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表者を参加させて、一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に、訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは、使…
本件における時季変更権の行使は、特段の事情がない限り「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し有効である。そのため、これを前提とするけん責処分等が直ちに無効とはいえず、原審の判断には法令の解釈適用の誤りがある。
実務上の射程
専門的・集中的な研修期間中の年休請求に対する時季変更権行使を広く肯定した射程を持つ。答案上は、通常の「代替要員の確保可能性」だけでなく、「業務(訓練)の目的・代替不可能性」の観点から判断枠組みを構成する際に有用である。特に、労働者側の「事後のフォローが可能」という反論を排斥する論法として重要である。
事件番号: 平成2(オ)576 / 裁判年月日: 平成3年11月19日 / 結論: 棄却
労働者が請求していた年次有給休暇の時季指定日に、たまたまその所属する事業場において予定を繰り上げてストライキが実施されることになり、当該労働者が、右ストライキに参加しその事業場の業務の正常な運営を阻害する目的をもって、右請求を維持して職場を離脱した場合には、右請求に係る時季指定日に年次有給休暇は成立しない。