判旨
校長が教諭に対し、学校保健法等に基づき結核の有無に関するエックス線検査の受診を命ずることは、職務上の命令として適法である。教諭が正当な理由なくこれを拒否した場合は、地方公務員法上の懲戒事由に該当する。
問題の所在(論点)
校長によるエックス線検査の受診命令が、教員の職務上の義務を課す適法な命令といえるか、また、その拒否が地方公務員法上の懲戒事由を構成するか。
規範
市町村立中学校の校長は、所属する職員に対し、職務上の命令として結核の有無に関するエックス線検査の受診を命ずることができる。これは、学校保健法・結核予防法・労働安全衛生法等の規定を総合すると、当該検査が教職員個人の保健のみならず、学校における集団感染を防止し公共の福祉を増進するという「集団防衛」の見地から実施されるべきものだからである。したがって、受診が相当でない特段の身体的・健康上の事情がない限り、教諭はこれを受診する義務を負う。
重要事実
公立中学校の教諭である上告人は、過去の放射線暴露を理由に、校長が命じた定期健康診断のエックス線検査の受診を累次にわたり拒否した。上告人は代わりに痰検査等の結果(異常なし)を報告したが、校長は文書で受診を命じ、最終的に市教委も医師の証明書の提出か受診を求めたが、上告人はこれに従わなかった。なお、当該検査による実効線量は極めてわずかであり、痰検査はエックス線検査の代替にはならないものであった。
あてはめ
まず、エックス線検査は学校内での結核感染という社会的危害を防止する目的(集団防衛)があり、法規上の受診義務(労基法66条5項等)も存在する。本件において、検査による被ばく量は線量限度に比して極めて僅少であり、健康被害を考慮する必要がない程度のものであった。また、上告人が提出した痰検査の結果は信頼性が低く代替手段とは認められない。上告人において検査が不相当とされる具体的な身体的・健康上の支障を証明する医師の診断書も提出されていない。以上より、校長の命令は適法であり、上告人がこれに従わなかったことは、職務上の義務違反(地方公務員法29条1項)に該当するといえる。
結論
校長の受診命令は適法であり、上告人がこれに従わなかったことは地方公務員法上の懲戒事由に該当する。
事件番号: 平成9(行ツ)229 / 裁判年月日: 平成13年4月26日 / 結論: 棄却
市立中学校の教諭が,エックス線検査を行うことが相当でない身体状態ないし健康状態にあったなどの事情もうかがわれないのに,市教育委員会が実施した定期健康診断においてエックス線検査を受診しなかったなど判示の事実関係の下においては,校長が職務上の命令として発したエックス線検査受診命令は適法であり,上記教諭がこれに従わなかったこ…
実務上の射程
公務員の職務命令の限界が問われる事案において、法令上の義務がある事項(健康診断等)かつ合理的な公共の目的(集団防衛)がある場合には、個人の意思に反してでも受診を命じることが適法となることを示す。ただし、身体の状態により検査が著しく不適当である等の特段の事情がある場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となる余地を認めている点に注意が必要である。
事件番号: 昭和58(オ)1408 / 裁判年月日: 昭和61年3月13日 / 結論: 破棄自判
日本電信電話公社(昭和五九年法律第八五号日本電信電話株式会社法附則一一条による廃止前の日本電信電話公社法に基づき設立されたもの)が健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対し二週間の入院を要する頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命ずる業務命令を発した場合において、右職員に労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従…
事件番号: 平成22(行ツ)372 / 裁判年月日: 平成23年6月21日 / 結論: 棄却
公立高等学校等の校長が教職員に対し卒業式又は入学式において国旗掲揚の下で国歌斉唱の際に起立することを命じた職務命令は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,当該教職員の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。 (1) 上記の起立行為は,学校の儀式的行事における慣例上の儀礼的な所作…
事件番号: 平成16(行ツ)328 / 裁判年月日: 平成19年2月27日 / 結論: 棄却
市立小学校の校長が職務命令として音楽専科の教諭に対し入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた場合において,(1)上記職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと,(2)入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピア…