判旨
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を定める必要があり、その就業規則が法的規範として労働者を拘束するためには、内容を事業場の労働者に周知させる手続を要する。
問題の所在(論点)
就業規則に基づく懲戒処分が有効であるための要件として、就業規則の「周知」が必要か。具体的には、労働基準法上の届出等の手続のみで法的拘束力が生じるかが問題となる。
規範
1. 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。 2. 就業規則が法的規範としての性質を有し、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
重要事実
化学プラント設計会社に勤務する従業員Xは、業務上のトラブルや上司への暴言等を理由に、会社から懲戒解雇された。会社には旧就業規則と新就業規則が存在したが、本件懲戒解雇は新就業規則に基づき行われた。しかし、Xの行為当時の新就業規則は周知されておらず、また、旧就業規則についても、Xが勤務していたセンターには備え付けられていなかった。原審は、届出等の手続がなされていれば周知がなくとも旧就業規則の効力は認められるとして、懲戒解雇を有効と判断したため、Xが上告した。
あてはめ
本件において、会社は旧就業規則を作成し労働基準監督署長に届け出ていたが、Xが勤務するセンターには備え付けられていなかった。原審は周知手続の有無を十分に認定しないまま、届出等の事実のみをもって法的規範としての効力を肯定している。しかし、就業規則が労働者を拘束する法的規範となるためには、単なる内部的な作成や行政への届出だけでは足りず、労働者がその内容を知り得る状態に置く「周知」が必要である。したがって、周知がなされていない就業規則に基づき懲戒権を行使することは許されない。
結論
就業規則が効力を発揮するためには周知が必要であり、周知手続の存否を確定せずに懲戒解雇を有効とした原判決には法令適用の誤りがある。よって、原判決を破棄し、差し戻す。
事件番号: 平成13(受)1709 / 裁判年月日: 平成15年10月10日 / 結論: 破棄差戻
1 使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。 2 就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
実務上の射程
懲戒処分の有効性を論じる際の前提要件(罪刑法定主義的観点)として用いる。答案では「周知」の意義について、労働者が知ろうと思えば知ることができる状態(実質的な周知)を指すと解釈し、備え付けや掲示の有無などの具体的事実からあてはめる。労働契約法7条の法理を先取りした重要判例である。
事件番号: 昭和49(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和53年11月14日 / 結論: 棄却
(省略)