生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定は,次の(1)〜(3)など判示の事情の下においては,その改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえず,生活保護法3条又は8条2項の規定に違反しない。 (1)ア 上記改定開始の5年前には,老齢加算の対象となる70歳以上の者の需要は収入階層を問わず60ないし69歳の者の需要より少なく,70歳以上の単身者に対する老齢加算を除く生活扶助額は70歳以上の低所得単身無職者の生活扶助相当消費支出額を上回っていた。 イ 上記改定開始の20年前から2年前までの間における生活扶助に関する基準の改定率は消費者物価指数及び賃金の各伸び率を上回っており,上記改定開始の21年前から被保護勤労者世帯の消費支出の割合は一般勤労者世帯の消費支出の7割前後で推移していた。 ウ 上記改定開始の24年前と同4年前とを比較すると,被保護勤労者世帯の平均において消費支出に占める食料費の割合は低下していた。 (2)ア 上記改定による老齢加算の廃止は,3年間かけて段階的な減額を経て行われた。 イ 上記改定開始の5年前には,老齢加算のある被保護者世帯における貯蓄の純増額は老齢加算の額と近似した水準に達しており,老齢加算のない被保護者世帯における貯蓄の純増額との差額が月額5000円を超えていた。 (3) 上記改定は,専門家によって構成される専門委員会が統計等の客観的な数値等や専門的知見に基づいて示した意見に沿ったものであった。 ※生活扶助相当消費支出額:消費支出額の全体から,生活扶助以外の扶助に該当するもの,被保護世帯は免除されているもの及び家事使用人給料等の最低生活費になじまないものを控除した残額
生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定が生活保護法3条又は8条2項の規定に違反しないとされた事例
生活保護法3条,生活保護法8条,生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号。平成16年厚生労働省告示第130号による改正前のもの)別表第1第2章2
判旨
厚生労働大臣による生活保護の老齢加算廃止に係る保護基準の改定は、統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはなく、廃止の過程における激変緩和措置等の配慮も認められることから、判断の過程及び手続に過誤や欠落はなく、裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとはいえない。
問題の所在(論点)
生活保護法3条及び8条2項に基づく「保護基準」の改定(老齢加算の廃止)について、厚生労働大臣に認められる裁量権の範囲とその限界、並びに判断過程における合理性の有無。
事件番号: 平成22(行ヒ)367 / 裁判年月日: 平成24年4月2日 / 結論: その他
生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定に係る厚生労働大臣の判断の適否に関し,(1)老齢加算に見合う高齢者の特別な需要の有無に係る評価については統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等につき,(2)3年間の段階的な減額を経て廃止す…
規範
生活保護法3条、8条2項が定める「最低限度の生活」は抽象的・相対的概念であり、保護基準の具体化は厚生労働大臣の高度な専門技術的な考察と政策的判断に委ねられる。したがって、老齢加算の改定が違法となるのは、①改定時点において高齢者の特別な需要を否定し、改定後の基準が健康で文化的な生活水準を維持するに足りるとした判断に、判断の過程・手続の過誤、欠落等の観点から裁量権の逸脱・濫用がある場合、又は、②廃止に際し激変緩和措置等の要否・内容の判断に、期待的利益や生活への影響等の観点から裁量権の逸脱・濫用がある場合に限られる。
重要事実
(1)老齢加算は高齢者の特別な需要(教養費等)に対応して創設されたが、平成15年の専門委員会での特別集計により、70歳以上の消費支出は60〜69歳より少なく、老齢加算がない被保護世帯でも一般の低所得世帯の消費支出を上回っている実態が判明した。(2)消費者物価指数が下落する中で生活扶助基準は相対的に高い水準を維持しており、被保護世帯のエンゲル係数も低下していた。(3)これらを受け、厚生労働大臣は老齢加算に見合う特別な需要はないと判断し、3年間かけて段階的に減額・廃止する本件改定を行った。(4)本件改定時、激変緩和措置のほか、5年ごとの定期的な検証体制も整備されていた。
あてはめ
(1)本件改定の基礎となった専門委員会の意見は、特別集計等の統計データに基づき、高齢者の需要が他世代より少ないことや、一般低所得世帯との均衡を客観的に分析したものであり、統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見との整合性が認められる。よって、判断過程・手続に過誤や欠落はない。(2)期待的利益への配慮についても、3年間の段階的廃止という激変緩和措置を講じており、当時の被保護世帯の貯蓄状況等に照らせば、生活に看過し難い影響を及ぼしたものとは評価できない。定期的な検証も行われており、政策判断として相当性を欠くものではない。
結論
本件改定に裁量権の逸脱・濫用はなく、生活保護法3条、8条2項及び憲法25条に違反しない。したがって、本件改定に基づく各保護変更決定は適法である。
実務上の射程
判決文からは、老齢加算以外の各加算や基準本体の改定についても、同様に専門委員会の検証や客観的統計に基づく判断過程の合理性が問われることが示唆される。
事件番号: 平成29(行ヒ)292 / 裁判年月日: 平成30年12月18日 / 結論: 破棄自判
勤労収入についての適正な届出をせずに不正に保護を受けた者に対する生活保護法(平成25年法律第104号による改正前のもの)78条に基づく費用徴収額決定に係る徴収額の算定に当たり,当該勤労収入に対応する基礎控除の額に相当する額を控除しないことは,違法であるとはいえない。 基礎控除:昭和36年4月1日付け厚生事務次官通知「生…
事件番号: 令和5(行ヒ)397 / 裁判年月日: 令和7年6月27日 / 結論: その他
1 平成25年から平成27年にかけて行われた、物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることをその内容に含む、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定は、次の⑴~⑷など判示の事情の下では、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条…
事件番号: 令和6(行ヒ)170 / 裁判年月日: 令和7年6月27日 / 結論: その他
1 平成25年から平成27年にかけて行われた、物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることをその内容に含む、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定は、次の⑴~⑷など判示の事情の下では、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条…
事件番号: 昭和39(行ツ)14 / 裁判年月日: 昭和42年5月24日 / 結論: その他
生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は、被保護者の死亡により、当然終了する。