判旨
控訴審判決が、第一審判決と同一の理由で請求原因事実を認め、かつ抗弁事実の不成立について第一審と異なる評価(擬制から証拠不十分への変更)をしつつも結論を維持する場合、判決文に民訴法384条1項適用の旨を明示しなくとも違法ではない。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審判決と異なる理由付けによって抗弁事実を否定しつつ、結論において第一審判決を維持する場合において、判決書に民訴法384条1項(控訴棄却)の適用を明示すべきか。
規範
控訴裁判所が第一審判決を正当と認めて控訴を棄却する場合(民訴法384条1項)、判決文の論理構成から同条項を適用した趣旨であることが自明であれば、必ずしも当該条項の適用を判文中に明示することを要しない。
重要事実
被上告人(原告)の本訴請求に対し、第一審は請求原因事実を認め、上告人(被告)の抗弁事実については被上告人の主張を真実と看做してこれを排斥し、請求を認諾した。これに対し、原審(控訴審)は請求原因事実について第一審の理由を引用して認めたが、抗弁事実については「看做し」ではなく「認めるに足りる証拠がない」として不採用とした。その上で、原審は第一審の結論を維持したが、民訴法384条1項の適用については明示しなかった。
あてはめ
本件において、原判決は請求原因事実について第一審の理由を全面的に引用しており、抗弁事実についても、その否定の根拠(法的擬制か証拠不十分か)に差異はあるものの、抗弁を排斥して第一審の結論を維持する判断を示している。このような判旨の構成によれば、原判決が民訴法384条1項を適用して控訴を棄却した趣旨であることは客観的に自明であるといえる。したがって、形式的に条項番号等を掲げずとも、判決の正当性は妨げられないと解される。
結論
原判決に民訴法384条1項の適用の判示がなくても、判文上その趣旨が自明であれば違法とはいえず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審の判決書における理由記載の簡略化と、第一審判決の維持に関する形式的要件の緩和を示す。答案上は、理由の差し替えがあっても結論が同一であれば384条1項による控訴棄却が可能であること、および判決書の記載不備(理由不備)の有無を検討する際の許容範囲を画する指標として機能する。
事件番号: 昭和36(オ)1351 / 裁判年月日: 昭和37年3月8日 / 結論: 棄却
民訴第三九一条にいわゆる「第一審判決理由の引用」とは、原判決の記載そのままを引用することを要するの謂ではなく、これに附加し、訂正し、あるいは削除を施した上で引用することを妨げない趣旨である。