判旨
地方自治法7条1項に基づく知事の市町村合併決定は、住民の具体的権利義務を直接左右する処分ではないため、住民は当該処分自体の取消しを求める法律上の利益を有しない。
問題の所在(論点)
市町村の合併(廃置分合)に関する知事の決定に対し、当該市町村の住民は、その取消しを求める訴えを提起する「法律上の利益」(行政事件訴訟法9条1項、当時の法理)を有するか。
規範
行政庁の処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者(法律上の利益を有する者)のみが、当該処分の取消しを求める訴えを提起できる。市町村の廃置分合に関する知事の処分は、関係住民の権利義務を直接に支配するものではないため、特別の規定がない限り、住民は処分の適否を争う原告適格を有しない。
重要事実
兵庫県知事が地方自治法7条1項に基づき、a町と神戸市の合併を決定した。これに対し、a町の住民であり町議会の解散請求代表者であった上告人は、住民投票の結果を待たずになされた合併決定は解散請求権を侵害する違法なものであると主張し、合併決定処分の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
地方自治法7条1項による知事の合併決定処分は、自治体の枠組みを変更する性質のものであり、住民が個人として有する具体的な権利義務を直接創設、変更、または消滅させる処分ではない。住民が解散請求手続中であったとしても、それは住民としての参政権的な地位に基づく活動にすぎず、合併決定によって直接に私権を侵害される関係にはない。したがって、具体的権利義務の存否を争う訴訟は格別、処分そのものの適否を争う原告適格は認められない。
結論
a町住民である上告人は、本件合併決定の取消しを求める法律上の利益を有しない。したがって、本件訴えは不適法である。
実務上の射程
市町村の廃置分合や境界変更といった「一般的・抽象的」な行政処分について、住民の原告適格を否定した古典的判例である。現代の行政事件訴訟法9条2項の下でも、処分の根拠法規が保護する利益の性質から、住民個人の個別的利益を保護する趣旨ではないと解される際の有力な論理として援用される。
事件番号: 昭和28(オ)1285 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
市町村の住民は都道府県知事がしたその市町村合併の取消を求める法律上の利益を有しない。
事件番号: 昭和28(オ)737 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
昭和二三年法律第一七九号地方自治法改正法附則第二条(昭和二五年法律第一四三号による改正前)による住民投票において有効投票の過半数が分離に賛成であつても、住民は分離を請求する権利を有するものではない。