所論起訴状中の記載(註、麻薬購入に必要な文書を偽造し薬局員を欺罔して麻薬を騙取して所持した旨)は、本件公訴にかかる犯罪事実を具体的に明瞭にするための記載と解するを相当とし、また、第一審判決は、麻薬取締法違反の事実を認定したに止まり、請求を受けない事件につき有罪の判決をしたものではない。それ故、所論の違法は認められない。
起訴状に公訴犯罪事実を具体的に明瞭ならしめるため他の犯罪事実を記載することの適否
刑訴法256条6項
判旨
起訴状に予断を抱かせるおそれのある事項が記載されていても、それが公訴事実を具体的に明瞭にするために必要な範囲内であれば、起訴状一本主義に反せず適法である。
問題の所在(論点)
起訴状に公訴事実以外の事実や予断を抱かせるおそれのある事項が記載されている場合、刑事訴訟法256条6項の起訴状一本主義に違反し、公訴棄却の事由となるか。
規範
起訴状の記載内容が、本件公訴にかかる犯罪事実を具体的に明瞭にするための記載と解される場合には、刑事訴訟法256条6項が定める起訴状一本主義(予断排除の原則)に抵触せず、適法な起訴状としての要件を満たす。
重要事実
被告人が麻薬取締法違反の罪で起訴された事案において、弁護人は、起訴状の記載内容が予断を抱かせるものであり、かつ第一審判決が請求を受けていない事件について有罪とした旨を主張して上告した。具体的にどのような記載が問題となったかは判決文からは不明である。
あてはめ
本件起訴状の記載は、本件公訴にかかる犯罪事実を具体的に明瞭にするためになされたものと解するのが相当である。また、第一審判決はあくまで麻薬取締法違反の事実を認定したにとどまり、訴因の範囲を逸脱して請求を受けない事件につき有罪の判決をしたものではない。したがって、記載内容に違法は認められない。
結論
本件起訴状の記載は公訴事実の特定・明確化のために必要であり、起訴状一本主義に違反しないため、適法である。
実務上の射程
起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に関する初期の判例であり、記載内容が事実の特定に資するものであれば、多少の修飾的記載があっても予断排除原則に反しないとする判断枠組みを示している。答案上は、余事記載が問題となる場面で、その記載の目的が「公訴事実の具体的明瞭化」にあるか否かを検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3373 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法第四条第三号にいう「譲渡」は、所有権の移転を目的とする授受に限られない。 二 被告人Aが囮であるBの誘発的行為前にすでに犯行の決意をもつていたものであつて、右Bの行為は単に同被告人の犯行の機会を与えたにすぎないことは原判決の認定しているところであるから、同被告人に犯意がなかつたとか又はその行為を以て右B…