弁護人富田喜作の上告趣意第一点は原判決の憲法三八条三項違反を主張する。しかし、原判決は第一審判決を破棄し自判しているけれども、自から被告人に対する犯罪事実を認定しているものではなく、単に第一審判決の確定した犯罪事実に対し法律を適用したにすぎないから、原判決には所論の如き違法の存する余地はないわけである。従つて論旨は理由がない。 註。原判決は量刑不当として破棄自判したのであるが「第一審判決の確定した事実に対し法律を通用する」と判示した場合にかかる。
違憲を主張する上告がその前提を欠く事例
刑訴法405条,刑訴法408条
判旨
控訴審が第一審判決を破棄して自判する場合であっても、第一審が認定した犯罪事実をそのまま維持し、単に法律の適用を行うにとどまるときは、憲法38条3項の禁止する補強証拠なしの自白による有罪認定には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審判決を破棄して自判する場合において、第一審が認定した事実をそのまま用いて法律の適用のみを行うことが、憲法38条3項(自白の補強証拠の必要性)に抵触するか。
規範
憲法38条3項が「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と規定する趣旨は、証拠としての自白を偏重することによる誤判や拷問等の弊害を防止する点にある。この点、控訴審において新たに犯罪事実の認定を自ら行わず、第一審が確定した事実関係を前提として法律の適用の誤り(量刑を含む)を是正するにとどまるのであれば、上訴審による自判であっても同条項に抵触するものではない。
重要事実
被告人が起訴された刑事事件において、第一審判決は犯罪事実を認定していた。これに対し控訴審(原判決)は、第一審判決を破棄した上で自ら判決(自判)を下した。しかし、原判決は第一審が確定した犯罪事実そのものを変更して認定し直したわけではなく、その事実に対する法律の適用、すなわち有罪・無罪の法的評価や刑の量定を修正したものであった。弁護人は、控訴審が自白のみを根拠に有罪を認定したものであるとして憲法38条3項違反を主張し上告した。
あてはめ
本件において、原判決は第一審判決を破棄して自ら判決を下しているものの、その内容は被告人に対する犯罪事実を独自に認定し直したものではない。単に第一審判決が確定した犯罪事実に対して法律を適用したにすぎない。そうであれば、第一審において適法に事実が認定されている以上、その事実関係を前提とする法律判断の過程において憲法38条3項が問題となる余地はないと解される。
結論
原判決に憲法38条3項違反の違法は存在しない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審の自判における事実認定のあり方と補強法則の関係を示す。第一審が適法に事実を認定していれば、上訴審がその事実を維持したまま法令適用や量刑を修正する行為は、新たな事実認定ではないため補強法則の論理的限界外となることを確認する際に有用である。
事件番号: 昭和28(あ)4728 / 裁判年月日: 昭和29年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみに基づいて有罪とすることはできないが、第一審判決が自白以外に複数の補強証拠を援用して犯罪事実を認定している場合には、憲法38条3項及び刑訴法319条2項に反しない。 第1 事案の概要:被告人は所定の犯罪事実について自白を行っていた。第一審判決は、この自白のみならず、これに加えて幾多…