本件被告事件に付昭和二三年五月三一日に第一審の有罪判決が言渡され之に対し被告人から控訴の申立をなし控訴審の第一回公判期日が同二五年一二月七日に開かれ同月二〇日判決の言渡があつたことは所論のとおりである。しかしこのような遅廷は当時における控訴審の事件の輻輳と裁判所職員の手不足、殊に第二審である仙台高裁秋田支部が昭和二四年三月一〇日開設せられて早々のことでありその施設機構の整備等の関係上早急な審理を望み得なかつたことに因るものであり不合理な遅滞があつたものということわできないからこれを目して直ちに憲法第三七条第一項に違反するものとはいえない。
第一審の判決が言渡されてから二年六月余を経て控訴審の第一回公判期日が開かれた場合と憲法第三七条第一項
憲法37条1項
判旨
裁判の遅延が憲法37条1項に違反するか否かは、遅滞が不合理といえるかによって判断されるべきであり、事件の輻輳や裁判所の施設機構の整備状況等の事情により早急な審理が困難であった場合には、不合理な遅滞には当たらない。
問題の所在(論点)
第一審判決から控訴審開始までの約2年半に及ぶ審理の遅延が、憲法37条1項が保障する「迅速な裁判」を受ける権利を侵害し、違憲といえるか。
規範
憲法37条1項の「迅速な裁判」をうける権利の侵害の有無は、審理の遅延に「不合理な遅滞」があるか否かによって判断される。単なる期間の長短だけでなく、当時の裁判所の事件処理状況、組織的・施設的制約等の諸事情を考慮し、審理の遅滞が真にやむを得ない事情に基づくものであるかを検討すべきである。また、仮に迅速性を欠く違法があっても、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合は上告理由とならない。
重要事実
被告人に対し、昭和23年5月31日に第一審の有罪判決が言い渡された。被告人は控訴を申し立てたが、控訴審の第一回公判期日は昭和25年12月7日に開かれ、同月20日に判決が言い渡された。第一審判決から控訴審の第1回公判まで約2年半の期間を要していた。
あてはめ
本件における約2年半の遅延は、当時の控訴審における事件の著しい輻輳(ふくそう)や裁判所職員の不足という客観的事情に起因する。加えて、控訴審を担当した仙台高等裁判所秋田支部は、昭和24年3月に開設されたばかりであり、施設や機構の整備途上にあって早急な審理を望み得ない特別な状況にあった。これらの事情を総合すれば、本件の遅延は不合理な遅滞とは認められない。
結論
本件の審理の遅延は不合理なものとはいえず、憲法37条1項に違反しない。
実務上の射程
迅速な裁判の保障の限界を示した初期判例である。後の高田事件判決(最大判昭47.12.20)が「不合理な遅延」の判断基準を具体化した際、本判決のような「裁判所の多忙・人員不足」という制度的・構造的事由のみをもって正当化することには慎重な態度が示された点に留意が必要である。
事件番号: 昭和44(あ)1561 / 裁判年月日: 昭和46年1月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審および控訴審の訴訟経過に照らし、審判が迅速を欠いたとはいえない場合には、憲法37条1項の迅速な裁判を受ける権利に違反しない。また、被告人に有利な事実に関するものとはいえない証拠書類の取調べは、同条2項の証人喚問権等の侵害にも当たらない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件について第一審および…