論旨は控訴審の手続において控訴裁判所が新な証拠の取調を為すことなく、刑訴四〇〇条但書により訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみにより、しかも検事の控訴理由に基き第一審判決の量刑を不当なりとして破棄自判し、第一審判決の刑より重い刑を言い渡すことは、被告人を二重の危険に置くものであり憲法三九条後段に違反すると主張するのであるが、検査官の上訴を同条に反しないとした判例の趣旨に反する独自の見解にすぎない。
検察官の上訴により第一審判決より重い刑を言い渡すことと憲法第三九条
憲法39条後段,刑訴法351条,刑訴法400条但書,刑訴法402条
判旨
同一事件における第一審と控訴審の訴訟手続は、一つの継続した危険の状態にあると解され、控訴審で第一審より重い刑を言い渡しても二重の危険の禁止(憲法39条後段)には反しない。
問題の所在(論点)
検察官の控訴に基づき、控訴裁判所が第一審の証拠のみによって第一審より重い刑を言い渡すことが、憲法39条後段の禁止する「二重の危険」に該当するか。
規範
同一事件の訴訟手続は、その開始から終末に至るまで一つの継続的状態と見るべきであり、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみであって、二重の危険は存在しない。第一審と控訴審の手続は、同じ事件における継続的な一つの危険の各部分を構成するにすぎない。
重要事実
被告人Bに対し、第一審判決が下されたが、検察官が量刑不当を理由に控訴した。控訴裁判所は、新たな証拠調べを行うことなく、訴訟記録および第一審の証拠のみに基づき、刑事訴訟法400条但書を適用して第一審判決を破棄自判した。その際、第一審の刑よりも重い刑を言い渡したため、被告人側がこれが二重の危険の禁止に抵触すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁の判例理論によれば、刑事訴訟は第一審から上訴審を経て確定するまで一連のプロセスであり、その間被告人が晒されている「刑罰を科される危険」は単一かつ継続的なものである。したがって、検察官の控訴により控訴審が開始され、第一審の証拠関係を再評価した結果として第一審より重い刑が科されたとしても、それは同一の危険の範囲内における判断の変動にすぎない。新たな別の危険が創出されたわけではないため、二重の危険の禁止には抵触しないといえる。
結論
控訴審において第一審より重い刑を言い渡すことは憲法39条後段に違反しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における上訴制度の合憲性を支える「継続的危険説」の基本判例である。被告人のみが控訴した場合には不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)が働くが、検察官が控訴した場合には、憲法上の二重の危険の法理は重罰への変更を妨げないことを明確にしている。
事件番号: 昭和53(あ)2334 / 裁判年月日: 昭和54年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官が第一審判決の量刑を不服として控訴を申し立て、第一審より重い刑を求めることは、憲法39条が禁止する二重の危険には抵触せず、合憲である。 第1 事案の概要:第一審判決に対し、検察官が量刑不当を理由として控訴を申し立てた。被告人側は、検察官が控訴により第一審よりも重い刑を求めることは、被告人に新…