所得税法第四二条第三項にいう源泉徴収義務者でない者に対してなされた源泉徴収所得税徴収決定は、同法条の解釈適用をあやまつた違法があるに過ぎないものであるから、裁判所が右の処分は憲法第三〇条、第八四条に違反すると認定したことは、違憲の判断の必要のない事項についてなされた無用な判断というべきである。
違憲の判断の必要のない事項について違憲の判断をしたと認められた事例
憲法30条,憲法84条,所得税法42条3項
判旨
行政処分の無効は、その瑕疵が重大であるだけでなく、客観的に明白であることを要する。源泉徴収義務者でない者に対する徴収決定は、法令解釈の誤りという重大な瑕疵があるとしても、明白性を欠く限り当然無効とはならない。
問題の所在(論点)
行政処分に重大な瑕疵がある場合、その瑕疵が「客観的に明白」でなくとも当該処分は当然無効となるか。また、源泉徴収義務者でない者に対する徴収決定が憲法30条・84条に違反し当然無効となるか。
規範
行政処分が法律上当然に無効であるといえるためには、当該処分に重大な瑕疵が存在するだけでなく、その瑕疵が「客観的に明白」であることを要する。
重要事実
課税当局が、所得税法上の源泉徴収義務者ではない上告人らに対し、源泉徴収所得税の徴収決定処分を行った。原審は、当該処分には徴収対象を誤った重大な瑕疵があるものの、その瑕疵は客観的に明白ではないと判断したため、上告人らが処分の無効を主張して争った事案である。
事件番号: 昭和41(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和44年2月6日 / 結論: 棄却
昭和二五年法律第七二号による改正前の旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)が法人の超過所得算定の基礎とする「資本金額」の計算上、同法一六条による積立金額から除外される「法人税として納付すべき金額」には、当該事業年度の期首において客観的に成立していたと考えられる前事業年度の所得に関する更正処分により追徴を受けた不足税額は含…
あてはめ
本件徴収決定は、所得税法の解釈を誤り、本来源泉徴収義務を負わない者に対してなされたものであり、その瑕疵は重大であるといえる。しかし、処分の安定性や信頼保護の観点から、当然無効とするには瑕疵が客観的に明白であることが必要であるところ、本件の法令解釈の誤りは直ちに明白とはいえない。また、本件は法律の解釈誤りにすぎず、憲法30条(納税の義務)や84条(租税法律主義)に直ちに違反するものではない。
結論
本件徴収決定には重大な瑕疵があるものの、客観的に明白とはいえないため、法律上当然に無効とすることはできない。
実務上の射程
行政処分の無効事由として「重大かつ明白な瑕疵」が必要であることを示したリーディングケースである。答案上は、出訴期間経過後の無効確認訴訟や公定力を否定すべき場面で、この二要件(重大性・明白性)をセットで論証の起点とする。
事件番号: 昭和37(オ)790 / 裁判年月日: 昭和39年2月18日 / 結論: 破棄自判
無申告加算税を課徴すべき場合に、過少申告加算税を課しても、その課税処分を無効とはいえない。
事件番号: 昭和42(行ツ)57 / 裁判年月日: 昭和48年4月26日 / 結論: 破棄差戻
一、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、当該処分は、当然無効と解するのが相当である。 二、甲が、…
事件番号: 昭和32(オ)859 / 裁判年月日: 昭和33年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所得税更正決定における所得金額の認定の誤りは、特段の事情がない限り、行政行為の内容上の誤りにすぎず、当然無効を基礎付ける重大かつ明白な瑕疵とはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、税務署長が行った所得税の更正決定について、所得金額の認定に誤りがあるとして、当該更正決定の無効確認を求めて出訴した。…
事件番号: 昭和35(オ)727 / 裁判年月日: 昭和37年3月16日 / 結論: 棄却
所得税法第四四条第四項は所得に関する金額のみならず、何人の所得であるかをも決定できる旨規定したものである。