一、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、当該処分は、当然無効と解するのが相当である。 二、甲が、その所有土地につき、ほしいままに、乙に対する所有権移転登記を経由したうえ、同人名義で丙に売却した等判示のような事情のある場合においては、乙が事後において明示または黙示的にこれを容認した等の特段の事情のないかぎり、乙に譲渡所得があるとしてなされた課税処分は、当然無効と解すべきである。
一、課税処分が当然無効と解される場合 二、課税処分が特段の事情のないかぎり当然無効と解すべきであるとされた事例
行政事件訴訟法3条4項,旧所得税法(昭和22年法律第27号)9条1項8号
判旨
課税処分の内容上の過誤が課税要件の根幹に関するものであり、徴税行政の安定性を考慮してもなお、納税者に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的な事情がある場合には、当該処分は当然無効となる。本件のように、第三者が名義を冒用して登記を操作し、納税者に全く所得が発生していないにもかかわらず課税された場合は、特段の事情がない限り無効事由に該当する。
問題の所在(論点)
課税処分において、実際には所得が全く帰属していない者に対して課税がなされたという「課税要件の根幹に関わる誤り」がある場合、不服申立期間を徒過していても当該処分を当然無効と解することができるか、その判断枠組みが問題となる。
規範
行政処分に当然無効と言えるほどの瑕疵があるかは、原則として瑕疵の重大かつ明白性により判断されるべきであるが、課税処分の無効判断においては必ずしも明白性を要しない。具体的には、①内容上の過誤が課税要件の根幹に関するものであり、②徴税行政の安定・円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果を理由として納税者に不利益を甘受させることが「著しく不当」と認められる例外的な事情がある場合には、当該処分は当然無効となる。その際、納税者に名義冒用の容認や利益享受などの「特段の事情」があるかが考慮される。
事件番号: 昭和37(オ)790 / 裁判年月日: 昭和39年2月18日 / 結論: 破棄自判
無申告加算税を課徴すべき場合に、過少申告加算税を課しても、その課税処分を無効とはいえない。
重要事実
訴外Dは、上告人らに無断で上告人ら名義の印章や書類を偽造し、自己所有の土地建物について上告人らへの所有権移転登記を経由させた。その後、Dは再度書類を偽造して当該不動産を第三者に売却し、代金を取得した。税務署長は登記簿の記載に基づき、上告人らに譲渡所得があったとして所得税の賦課決定処分を行った。上告人らは法定期間内に不服申立てを行わなかったが、後に処分の無効を主張して争った。
あてはめ
本件では、上告人らは不動産を所有したことがなく、譲渡所得は真実の譲渡人であるDに帰属している。したがって、所得が全くない者に課税した点において、課税要件の根幹についての重大な過誤がある。上告人らはDによる名義冒用を不知の間に受けたに過ぎず、登記原因に何ら寄与していない。このような場合、真実の所得者への課税の余地も残されており、徴税行政に格別の支障はない。もっとも、上告人らがDとの親族・貸借関係から名義冒用を事後的に容認していたり、表見的権利関係から何らかの利益を得ていたりする「特段の事情」がある場合には、不利益を甘受させることが著しく不当とは言えない余地がある。原審はこれらの特段の事情の有無を十分に審理していない。
結論
課税要件の根幹に過誤があり、不利益を甘受させることが著しく不当な例外的事情があるなら、明白性を欠いても処分は当然無効となる。本件は特段の事情の有無を再審理させるため、差し戻すべきである。
実務上の射程
司法試験において行政処分の無効事由を論じる際、本判決は「重大かつ明白」説の修正(明白性不要説に近い運用)として極めて重要である。特に「名義冒用」や「客観的事実の欠如」が明白な課税処分において、法的安定性(不可争力)と個別的妥当性の調和を図る際の規範として引用すべきである。
事件番号: 昭和36(オ)502 / 裁判年月日: 昭和37年2月23日 / 結論: 棄却
所得税法第四二条第三項にいう源泉徴収義務者でない者に対してなされた源泉徴収所得税徴収決定は、同法条の解釈適用をあやまつた違法があるに過ぎないものであるから、裁判所が右の処分は憲法第三〇条、第八四条に違反すると認定したことは、違憲の判断の必要のない事項についてなされた無用な判断というべきである。
事件番号: 昭和35(オ)727 / 裁判年月日: 昭和37年3月16日 / 結論: 棄却
所得税法第四四条第四項は所得に関する金額のみならず、何人の所得であるかをも決定できる旨規定したものである。
事件番号: 昭和41(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和44年2月6日 / 結論: 棄却
昭和二五年法律第七二号による改正前の旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)が法人の超過所得算定の基礎とする「資本金額」の計算上、同法一六条による積立金額から除外される「法人税として納付すべき金額」には、当該事業年度の期首において客観的に成立していたと考えられる前事業年度の所得に関する更正処分により追徴を受けた不足税額は含…
事件番号: 昭和38(オ)499 / 裁判年月日: 昭和39年10月22日 / 結論: 棄却
所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、許されないものと解すべきである。