判決事実摘示に証人尋問施行の記載を遺脱し判決理由においてその証言の採否が明らかでなくても判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背に当らないとされた事例。
判旨
民法173条1号(旧法)に規定される「生産者」とは、自ら農林水産物等の生産を業とする者を指し、林業を営んでいると認められない者が売主である場合には、立木売買代金債権に同条の短期消滅時効は適用されない。
問題の所在(論点)
立木売買代金債権について、売主が林業を営んでいる実態がない場合、旧民法173条1号の「生産者」による産物の代金債権として、短期消滅時効の適用を受けるか。また、重要な証拠の摘示遺脱が判決に影響を及ぼすか。
規範
旧民法173条1号の短期消滅時効が適用されるためには、債権者が「生産者、卸売商人又は小売商人」であることを要する。ここでいう「生産者」とは、自己の計算と責任において農林水産業等の生産活動を継続的に行う者をいい、当該活動を業として営んでいることが客観的に認められなければならない。
重要事実
買主(上告人・被控訴人)と売主(被上告人・控訴人)との間で立木の売買契約が締結された。買主は、当該売買代金債権について旧民法173条1号の2年の短期消滅時効を主張したが、原審は売主が林業を営んでいることを認めるに足りる証拠がないとして、売主を同条にいう「生産者」とは認めなかった。また、証人Dの証言が判決に反映されていない等の手続上の瑕疵も上告理由として主張された。
あてはめ
まず、証人Dの証言は契約条件を聞知せず、契約以前の事項に関するものにすぎないため、争点の判断に影響を及ぼさない。次に、消滅時効の点については、売主が林業を営んでいる事実(生産者性)が証拠上認められない以上、同条の適用要件を欠く。買主が消費者であるか否かの点を確認するまでもなく、主体要件である「生産者」に該当しない以上、短期消滅時効の適用は否定される。原審の事実認定に不合理な点はなく、法令の解釈適用に誤りはない。
結論
売主が生産者であると認められない以上、本件債権に旧民法173条1号は適用されない。また、証拠摘示の遺脱等の瑕疵も判決に影響を及ぼすものではないため、上告を棄却する。
実務上の射程
2017年民法改正により、旧173条等の短期消滅時効は廃止され、時効期間は原則として知った時から5年(166条1項1号)に統一された。そのため、現在の実務・答案上で本判例を直接用いる機会はないが、旧法下における「業として行う者」の限定的な解釈を示す資料として意義がある。
事件番号: 昭和39(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年3月10日 / 結論: 棄却
漁業協同組合は、民法第一七三条第一号にいう生産者または卸売商人にあたらない。