空襲苛烈となつた原判示第六次強制疎開の場合においては、疎開建物敷地の借地権の東京都に対する譲渡が地上建物の補償金受領をもつて、暗黙になされたと認められる。
空襲下の疎開建物敷地の借地権譲渡が東京都との間に暗黙のうちになされたとされた事例
防空法5条ノ4,罹災都市借地借家臨時処理法10条
判旨
戦時下の強制疎開に伴い、行政庁が建物と借地権を一括した補償基準に基づき補償金を支払った場合、借地権者がその事実を了承して受領したときは、黙示の借地権譲渡合意があったと認められる。この場合、別途借地権のみの補償をしないことは憲法29条等に違反しない。
問題の所在(論点)
強制疎開に伴う補償金の受領により、借地権の黙示的な譲渡合意が成立したといえるか。また、建物補償金に借地権分を包含させて支払うことが憲法29条等に違反しないか。
規範
当事者間において、一定の補償基準に従い建物と借地権を一括して補償する旨の方針が示され、借地権者がその内容を了承した上で補償金を受領した場合には、特段の事情のない限り、当該借地権を譲渡する旨の黙示の意思表示があったと解するのが相当である。この場合、対価の支払を伴う私法上の譲渡契約が成立しているため、損失補償の適法性が問題となる余地はない。
重要事実
第六次強制疎開に際し、東京都は戦局の悪化に伴い、従来の補償方法とは異なり一定の基準に従って建物と借地権を一括して補償する方針を決定した。東京都は、借地権を譲渡させる目的で補償金を支払い、借地権者(上告人)もこの事実を了承して本件土地上の建物の補償金を受領した。その後、借地権の譲渡の有無および別途の補償の要否が争点となった。
あてはめ
東京都は第六次強制疎開において、第五次以前と同様に借地権を譲渡せしめる目的で補償金を支払っており、その算出にあたっては建物と借地権を一括する基準を用いていた。上告人は、この補償方法の趣旨および事実関係を「諒承」した上で補償金を受領している。そうであれば、客観的な補償金の授受に加え、借地権者の主観的な了解も存在するため、暗黙のうちに借地権を東京都に譲渡したものと評価できる。したがって、一括補償の枠組みの中で借地権の対価も支払われたといえる。
結論
上告人は東京都に対し、本件土地の借地権を黙示に譲渡したものと認められる。建物補償金に借地権対価を含める処理は当事者の合意に基づくものであり、憲法29条等に違反しない。
実務上の射程
行政処分に伴う補償において、明示的な譲渡契約書が存在しない場合であっても、行政側が提示した補償基準の提示と、相手方の「了承」を伴う受領があれば、黙示の譲渡合意を認定できる。民事上の意思表示の解釈として、当時の社会情勢や補償基準の公示状況を考慮する際の有力な判断材料となる。
事件番号: 昭和30(オ)621 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制疎開に際して建物および借地権の対価を含む補償金を受領した場合には、借地権は消滅したものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:上告人は、第六次強制疎開に際し、東京都から建物に対する補償のみならず、当該建物敷地の借地権に対する補償も含めた金額を受領した。その後、借地権の存否が争点となったが、…
事件番号: 昭和26(オ)855 / 裁判年月日: 昭和29年2月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制疎開に際し、建物の補償価額に敷地の借地権の対価が含まれていることを認識した上で、異議なく補償金を受領した場合には、借地権の買上げを承諾したものと認められる。 第1 事案の概要:上告人は本件建物を所有し、その敷地について借地権を有していた。戦時中の強制疎開の実施にあたり、行政側は建物のみならず借…
事件番号: 昭和33(オ)801 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権譲渡における賃貸人の黙示的承認の有無について、個別の主張事実を排斥した上でそれらを総合しても承認の事実は認められないとした原判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、賃貸人から借地権譲渡について黙示的な承認を得たと主張した。これに対し、原審(控訴審)は上告人が主張した各事実について個別…