法人登記の職権抹消処分の取消訴訟においては、裁判所は、登記官が審査権限を有する範囲内で当該処分の適否を判断すれば足り、登記官の審査権限に属さない資料に基づいて処分の適否を判断すべきではない。
法人登記の職権抹消処分の取消訴訟における司法審査の範囲
非訟事件手続法124条,商業登記法110条,商業登記法112項
判旨
登記官による法人登記の職権抹消処分に関する取消訴訟において、裁判所の審査対象は登記官の形式的審査権限の範囲内に限られ、登記簿等の書類以外の資料に基づき処分の適否を判断することはできない。
問題の所在(論点)
法人登記の職権抹消処分の取消訴訟において、裁判所は登記官の審査権限(形式的審査権限)を超えて、実体法上の権利関係や提出書類以外の資料に基づき処分の適否を審理・判断することができるか。
規範
法人登記の職権抹消手続における登記官の審査権限は、登記簿、申請書及びその添付書類のみに基づいて判断する形式的審査権限にとどまる。したがって、当該処分の取消訴訟における裁判所の審理範囲も、登記官が有する形式的審査権限の範囲内において行われた権限行使の適否に限定される。登記官の審査権限に属さない資料(提出書類以外の資料)に基づいて処分の適否を判断すべきではない。
重要事実
登記官が、法人登記について登記された事項に無効の原因があるとして、商業登記法の規定を準用して職権抹消処分を行った。これに対し、上告人は原始寄附行為の存在等の事情を主張して処分の取消しを求めた。原審は、当該事情は登記官の審査権限の範囲外であるとして処分の適否に影響しないと判断したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
本件における理事就任等の登記は、任期満了により退任した理事が新理事を選任するという無効な行為に基づきなされたものである。登記官は、登記簿や申請書類等の形式的資料からこの無効原因を把握し、職権抹消処分を行った。上告人が主張する「原始寄附行為の存在」は、登記官の形式的審査権限の範囲に属さない資料である。裁判所は登記官がとった権限行使の適否を形式的審査権限の範囲で審理すれば足りるため、上記資料を考慮せずになされた原審の判断に違法はない。
結論
職権抹消処分の取消訴訟における裁判所の審査範囲は、登記官の形式的審査権限の範囲内に限定される。本件処分に審査権の逸脱等の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、商業登記(法人登記)の形式的審査権限の原則が、取消訴訟における裁判所の審理範囲をも拘束することを明示したものである。答案上は、登記官の処分(受理・却下・抹消)の適否が争点となる場合に、行政訴訟の場であっても実体関係に踏み込んだ審理は制限されるというロジックとして活用できる。
事件番号: 昭和59(行ツ)232 / 裁判年月日: 昭和60年2月21日 / 結論: 棄却
一 登記の申請が商業登記法二四条各号所定の却下事由に該当していても、これが受理されて登記が完了したときは、審査請求により右登記の抹消を求めることができるのは、登記につき登記官による職権抹消事由が存することを理由とする場合に限られる。 二 商法一九条の規定に反し登記することができない商号の登記を目的とする登記申請でも、登…
事件番号: 昭和33(オ)358 / 裁判年月日: 昭和35年7月14日 / 結論: 棄却
仮処分債務者甲所有の不動産につき仮処分債権者乙のためになされた処分禁止の仮処分登記後に甲から丙に所有権移転登記がなされた場合において、その後甲と乙との間に成立した甲から乙へ所有権移転登記をなすべき旨の調停調書に基き乙が所有権移転登記を申請するについては、右申請と同時に丙のための所有権移転登記の抹消を申請する場合にかぎり…
事件番号: 昭和56(行ツ)83 / 裁判年月日: 昭和59年11月26日 / 結論: 棄却
供託申請についての供託官の審査権限は、供託書及び添付書類のみに基づいてするいわゆる形式的審査の範囲にとどまるが、その審査の対象は、手続的要件に限られるものではなく、供託原因の存否等の実体的要件にも及ぶ。