上告の理由が、理由の不備をいうがその実質は事実誤認を主張するものであって、明らかに民訴法三一二条一項及び二項に規定する事由に該当しないときでも、原裁判所が同法三一六条一項一号によって上告を却下することはできない。
上告の理由が理由の不備をいうが明らかに民訴法三一二条一項及び二項に規定する事由に該当しないときに原裁判所が上告を却下することの可否
民訴法312条,民訴法316条1項,民訴法317条
判旨
民訴法312条1項及び2項の事由に該当しないことが明らかな上告であっても、上告裁判所である最高裁判所が決定で棄却できるにとどまり、原裁判所又は上告裁判所が同法316条1項又は317条1項により却下することはできない。
問題の所在(論点)
上告理由が民訴法312条1項・2項の事由に該当しないことが明らかな場合に、裁判所は「上告却下」の裁判をすることができるか。上告棄却(317条2項)と上告却下(316条1項、317条1項)の限界が問題となる。
規範
上告理由の実質が事実誤認であり、民訴法312条1項及び2項に規定する事由に該当しないことが明らかである場合、上告裁判所は同法317条2項に基づき、決定で上告を棄却すべきである。この場合、不適法な上告として原裁判所(316条1項)や上告裁判所(317条1項)が上告を却下することはできない。
重要事実
抗告人らは、本案事件について上告を提起したが、その上告理由は理由の不備をいうものであった。しかし、その実質は事実誤認を主張するものであり、民訴法312条1項及び2項に規定する事由には該当しないことが明らかであった。これに対し、原裁判所は当該上告を不適法として却下する決定を下したため、抗告人らが特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和24新(つ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
公判期日において刑訴法第一四六條により証言を拒んだ証人並びに供述をした証人の檢察官に対する各供述録取書及び被告人の司法警察職員に対する供述録取書を、檢察官が証拠として提出したのに対して、弁護人から証人の右供述録取書は同法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていないものであり、被告人の右供述録取書は同法第三二二條によ…
あてはめ
本件の上告理由は理由不備を主張するが、実質は事実誤認の主張にすぎない。これは民訴法312条1項・2項の法定上告事由を欠くものであり、同法317条2項の「上告の理由がないことが明らかであるとき」に該当する。上告事由の欠如は上告の「不適法」を構成するものではなく、実質的な理由の存否の問題であるから、却下ではなく棄却によって処理されるべき事案である。したがって、本件上告を却下した原決定には法令解釈の誤りがある。
結論
最高裁判所は、法定の上告事由がないことが明らかな上告を却下することはできず、棄却すべきである。ただし、本件特別抗告については憲法違反の事由に該当しないため棄却する。
実務上の射程
司法試験においては、上告審の手続的帰結(却下か棄却か)を問う問題で重要となる。判例は、312条1項・2項事由の不存在が明らかな場合は「棄却」事由であり、「却下」事由ではないことを明確にしている。答案上は、不適法却下(形式的要件の欠如)と理由なし棄却(実質的要件の欠如)の峻別を論じる際に、本判例を根拠に317条2項の適用範囲を画定する。
事件番号: 昭和57(し)26 / 裁判年月日: 昭和57年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する特別抗告(刑訴法433条)は、対象となる決定又は命令に対し、法上他に不服を申し立てることができない場合に限り許容される。 第1 事案の概要:申立人は、原決定に対し、刑訴法419条および421条に基づき、高等裁判所に対して通常の抗告をすることが可能な状況にあった。しかし、申立人は通…
事件番号: 平成21(許)9 / 裁判年月日: 平成21年6月30日 / 結論: その他
特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるがそれが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,原裁判所が民訴法336条3項,327条2項,316条1項により特別抗告を却下することはできない。
事件番号: 平成11(許)8 / 裁判年月日: 平成11年3月9日 / 結論: その他
民訴法三一八条一項の事件に当たらないことを理由として、原裁判所は、同条五項、同法三一六条一項により上告受理の申立てを却下することができない。
事件番号: 昭和46(ク)311 / 裁判年月日: 昭和46年11月10日 / 結論: 却下
高等裁判所が民訴法三九九条一項一号により却下した決定に対しては、最高裁判所に対して即時抗告をなすことは許されない。