公訴権の濫用を理由とする憲法一四条違反の主張が欠前提とされた事例
憲法14条
判旨
検察官による公訴の提起が、適正な裁量基準を逸脱し、被告人の属性のみを重視して不当な差別の意図でなされたと認められない限り、公訴権の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
検察官による公訴の提起が、特定の属性(暴力団組員であること)を理由とする不当な差別の意図に基づくものである場合、公訴権の濫用(刑訴法248条の逸脱)として違法となるか。
規範
検察官には公訴提起に関する広範な裁量(刑事訴訟法248条)が認められており、公訴権の濫用として公訴棄却が認められるのは、公訴の提起が適正な裁量基準を著しく逸脱し、特定の属性を理由とする不当な差別の意図に基づくなど、検察官の裁量権を逸脱・濫用したと認められる特段の事情がある場合に限られる。
重要事実
被告人が暴力団組員であることを理由に、公訴の提起がなされた事案。弁護人は、検察官が被告人の属性のみを重視し、不当な差別の意図をもって公訴を提起したものであり、憲法14条(法の下の平等)に違反し、公訴権の濫用にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件において、検察官の公訴提起は適正な裁量基準の範囲内であり、被告人が暴力団組員であることのみを重視して不当な差別の意図でなされたものとは認められない。すなわち、検察官が犯罪の性質や情状を総合的に判断した結果としての起訴であり、暴力団排除という刑事政策的観点を含めたとしても、それが直ちに裁量権の逸脱を意味するものではないと解される。
事件番号: 昭和41(あ)1606 / 裁判年月日: 昭和42年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事裁判の量刑において、犯人の性格、経歴、環境、犯行の社会的背景等を考慮し、被告人ごとに異なる処遇をすることは憲法14条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Cは刑事裁判において、自身が暴力団員またはこれに準ずる者であることを理由に、一般人よりも不利益な量刑判断を受けた。これに対し被告人側は、特…
結論
本件公訴提起は適法であり、公訴権の濫用には当たらない。したがって、被告人の上告を棄却すべきである。
実務上の射程
公訴権濫用論の典型的な判断枠組みを示すものである。実務上、公訴棄却が認められるハードルは極めて高く、単に「他者が起訴されていない」という事実だけでは足りず、「不当な差別の意図」といった主観的要素や、裁量の著しい逸脱を立証する必要があることを示唆している。
事件番号: 昭和57(あ)936 / 裁判年月日: 昭和57年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が暴力団に所属している事実を考慮して量刑を決定することは、直ちに憲法14条1項の法の下の平等に反する不利益な差別的処遇にあたるものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において有罪判決を受け、その量刑の際、原判決が被告人が暴力団に所属していた事実を考慮した。これに対し弁護人は、暴力団…
事件番号: 昭和41(あ)73 / 裁判年月日: 昭和41年6月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団の組長としての社会的地位にあることをもって、直ちに事実認定や量刑において不利益な差別的処遇をすることは、憲法14条の法の下の平等に反する疑いがあるが、本件ではそのような差別的処遇は認められない。 第1 事案の概要:被告人は暴力団の組長としての地位にあった。原審の判断に対し、弁護人は、被告人が…
事件番号: 昭和29(あ)1745 / 裁判年月日: 昭和29年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】単なる法令違反を理由とする上告は、刑事訴訟法405条所定の上告理由に該当しない。また、職権による判決破棄事由である同法411条の適用も、記録上認められない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判の判決に対し上告を申し立てた。弁護人が提出した上告趣意の内容は、単なる法令…