仮処分判決に対して上訴が提起されたときは、仮処分の内容が、権利保全の範囲にとどまらずその終局的満足を得しめ、若しくはその執行により債務者に対し回復することのできない損害を生ぜしめる虞ある場合にかぎり、その執行の停止を求めることができる。
仮処分判決に対する上訴の提起と強制執行停止決定
民訴法756条,民訴法748条,民訴法512条,民訴法500条
判旨
仮処分判決に対する上訴がある場合、原則としてその執行停止は許されないが、仮処分の内容が権利の終局的実現を招来し、又は債務者に回復困難な損害を生じさせるおそれがある例外的な場合に限り、民事訴訟法(当時)512条を準用して執行停止を命じることができる。
問題の所在(論点)
仮処分判決に対して上訴が提起された場合、旧民訴法512条(仮執行宣言付判決の上訴による執行停止の規定)を準用して、当該仮処分の執行を停止することができるか。
規範
仮処分判決に対する上訴を理由とする執行停止(旧民訴法512条、500条の準用)は、原則として認められない。仮処分は本案の固有給付を保全する緊急措置であり、簡易な執行停止を認めれば制度の目的を滅却するからである。しかし、仮処分の内容が単なる権利保全の範囲にとどまらず、①権利の終局的満足を得させるもの(断行の仮処分等)である場合、または②執行により債務者に回復困難な損害を生じさせるおそれがある場合には、実質的に終局的執行と異ならないため、例外的に民訴法512条を準用して執行停止を命じることができる。
重要事実
抗告人(組合員ら)は、相手方に対し賃金支払の仮処分(仮の地位を定める仮処分)を申請し、裁判所は相手方に対し金員の支払を命じる仮処分判決を下した。これに対し相手方が控訴を提起したため、原審は旧民訴法512条・500条に従い、控訴事件の判決があるまで当該仮処分判決の執行停止を命じた。抗告人は、この執行停止決定が労働基本権や生存権を侵害する違憲なものである等と主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和43(ク)145 / 裁判年月日: 昭和43年9月3日 / 結論: 却下
仮処分決定に対する異議申立または仮処分判決に対する上訴に伴う執行停止の許否については、原則として、これを消極に解すべく、その停止が許されるのは、きわめて例外的な場合に限られるものと解すべきであるが、例外的な場合に停止を許すことがそれ自体として憲法に反するものではない。
あてはめ
本件仮処分判決の内容は、「被申立人は組合員に対し、それぞれ一人金605円ずつの金員を支払わなければならない」という金銭支払を命じるものである。このような支払の執行は、保全すべき請求の終局的実現を招来するおそれがあるものといえる。したがって、単なる保全措置を超えて実質的に終局的執行と同様の性質を有するものと解されるため、本件は例外的に旧民訴法512条を準用して執行停止を命じることができる場合に該当する。なお、この停止措置に際して、本案である上訴に理由があるか否かまで判断する必要はない。
結論
仮処分の内容が権利の終局的実現を招来する本件のような場合、旧民訴法512条に基づき仮処分判決の執行を停止することは適法である。
実務上の射程
本判決は、現行の民事保全法の下でも、仮処分に対する保全異議・保全抗告に伴う執行停止の判断基準(民保法27条、44条等)の基礎となる法理を示している。特に「満足的仮処分」については、債務者の損害が著しい場合に執行停止が認められやすいという実務上の運用の根拠となる。
事件番号: 昭和25(ク)57 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が民事事件の抗告について裁判権を有するのは、原決定に憲法違反の判断が含まれる場合に限られ、通常の再抗告規定は適用されない。 第1 事案の概要:抗告人等が、下級審の決定に対して最高裁判所へ抗告を申し立てた事案。抗告状の記載によれば、その抗告理由は原決定における憲法適合性の判断を不当とするも…
事件番号: 昭和24(ク)21 / 裁判年月日: 昭和24年9月28日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告は、民事訴訟法等の法令において特に最高裁判所への申し立てが許容されている場合に限り認められ、これに該当しない抗告は不適法である。 第1 事案の概要:抗告人らが最高裁判所に対して抗告を申し立てたが、当該抗告が法律の規定により最高裁判所に申し立てることが特に許容された類型に該当す…
事件番号: 昭和44(ク)240 / 裁判年月日: 昭和44年9月20日 / 結論: 却下
仮処分決定に対する異議申立に伴う執行停止の申立に対し、裁判所が実質的審査をしてその許否を決したときは、その裁判に対して不服申立をすることは許されない。
事件番号: 昭和25(ク)26 / 裁判年月日: 昭和25年5月8日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が下した決定に対しては、更に抗告を申し立てることは許されない。 第1 事案の概要:抗告人は、最高裁判所がなした決定に対し、旧民事訴訟法411条を根拠として更に抗告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):最高裁判所がなした決定に対して、更に抗告を申し立てる(再抗告等を行う)ことが認められ…