有毒飲食物等取締令第一条第二項は「メタノールは飲食ニ供スル目的ヲ以テ之ヲ販賣、譲渡、製造又ハ所持スルコトヲ得ズ」と規定しているのであつて、メタノールを買い受けた者自身において之を飲用に供すると將た又同人自身はこれを飲用せず更に他に轉賣売するとを問わず、苟くも飲用に供せられることを知りながら之を販賣することを禁止するものであることは同令立法の趣旨に鑑み疑を容れないところである。
有毒飲食物等取締令第一条第二項の規定の趣旨
有毒飲食物等取締令1條2項
判旨
憲法37条2項は、裁判所が必要と認めて尋問を許可した証人についての規定であり、裁判所の証拠調べの範囲を決定する権能を制限するものではない。また、有毒飲食物等取締令1条2項の「飲食に供する目的」とは、販売者が自ら飲用するか他者に転売するかを問わず、飲用に供されることを知りながら販売する一切の行為を指す。
問題の所在(論点)
1. 裁判所が証拠申請を却下することは、憲法37条2項が保障する被告人の証人審問権を侵害するか。 2. 有毒飲食物等取締令1条2項の「飲食に供する目的」の範囲に、他者が転売・飲用することを認識して販売する行為が含まれるか。
規範
1. 憲法37条2項の証人審問権は、裁判所がその必要を認めて尋問を許可した証人に適用されるものであり、裁判所が有する証拠調べの範囲を決定する裁量権を制限するものではない。 2. 有毒飲食物等取締令1条2項にいう「飲食に供する目的」とは、相手方が飲料として転売する目的であることを知りながら販売する行為も含む。立法の趣旨に鑑み、最終的に飲用に供されることを認識・容認して流通させることを禁止するものである。
重要事実
被告人A・Bらは、裁判所に対し証人の尋問申請を行ったが、原審は取り調べの必要がないとしてこれを却下した。また、被告人Gは、被告人Fが本件アルコール(メタノール)を飲料として他に転売する目的で買い受けることを知りながら、これを販売した。弁護人は、証拠申請却下が憲法37条2項(原文は38条2項と誤記)に反すること、および被告人自身が飲用する目的でない場合の販売は同令に違反しないことを主張して上告した。
事件番号: 昭和22(れ)337 / 裁判年月日: 昭和23年11月17日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令という勅令は有効に實施せられており、而して同名の法律は存在していないのであるから、第二審判決が右勅令を昭和二一年勅令第五二號と表示すべきところを、昭和二一年法律第五二號と誤つて表示したのであることが明らかである。而して第二審裁判所が右勅令の第一條及び第四條を適用したのであるから、論旨のように罪刑法…
あてはめ
1. 憲法37条2項は、無制限に証人尋問を認めるものではなく、裁判所が必要性を欠くと判断した証拠申請を却下することは適法な裁量行使である。本件原審の却下判断も、取調の必要がないとの判断に基づくものであり合憲である。 2. 有毒飲食物等取締令の規定は、有害なメタノールの流通を阻止する点にある。被告人Gは、相手方Fが「飲料として他に転売する目的」で買い受けることを察知(認識)しながら販売しており、これは実質的に飲用に供されることを目的とした販売に該当すると解される。
結論
1. 証拠申請の却下は憲法37条2項に違反しない。 2. 他者が飲料として転売することを知りながらメタノールを販売する行為は、有毒飲食物等取締令1条2項に違反する。
実務上の射程
裁判所の証拠採用に関する広範な裁量を認めた重要判例である。司法試験においては、証拠決定の違法性を争う文脈で、必要性の判断が裁判所の権能に属することを示す根拠として利用できる。また、目的刑法における「目的」の解釈として、直接的な自己の目的だけでなく、情を知って流通させることを含む広義の解釈を示す例としても参照しうる。
事件番号: 昭和25(れ)335 / 裁判年月日: 昭和25年6月20日 / 結論: 棄却
一 原判決は擬律の點においては有毒飲食物等取締令第一條を適用しているに過ぎないけれども本件アルコールがドラム罐入り工業用アルコールであることを判示しているところから見ると、右アルコールを同條第一項の「飲食物」とは認めないで同條第二項を適用いた趣旨であること明らかである。 二 有毒飲食物等取締令第一條第二項違反の犯罪が成…
事件番号: 昭和25(れ)561 / 裁判年月日: 昭和25年6月22日 / 結論: 棄却
一 憲法第三二條は、憲法又は法律に定められた裁判所以外の機關によつて裁判のされることのないことを保障したものであつて、訴訟法で定める管轄權を有する裁判所において裁判を受ける權利まで保障したものではない。(昭和二三年(れ)第五一二號同二四年三月二三日大法廷判決) 二 假りに訴訟法上事物管轄權を有する第一審裁判所が東京區裁…