留置権者が民法第二九八条第一項および第二項の規定に違反したときは、当該留置場の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またこれによつて損害を受けたかどうかを問わず、当該留置権の消滅を請求することができるものと解するのが相当である。
民法第二九八条第三項の法意。
民法298条
判旨
留置権者が民法298条1項・2項の義務に違反した場合、所有者は、違反行為が既に終了しているか、あるいは損害が発生しているかを問わず、同条3項に基づき留置権の消滅を請求できる。
問題の所在(論点)
留置権者が民法298条1項・2項の保管・使用制限義務に違反した場合、所有者が同条3項に基づき留置権の消滅を請求するために、違反行為の継続や損害の発生が必要か。
規範
民法298条3項の法意に照らせば、留置権者が善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべき義務(同条1項)や、債務者の承諾なく留置物を使用・賃貸・担保提供してはならない義務(同条2項)に違反したときは、所有者は、当該違反行為が終了したか否か、またこれによって損害を受けたか否かを問わず、留置権の消滅を請求することができる。
重要事実
本件立木の所有者である控訴人(被上告人)は、D社との間で伐採請負契約を締結し、被控訴人(上告人)はD社からこれを下請けして伐採を行った。被控訴人は、本件伐木について請負代金債権に基づき留置権を主張して占有していたが、控訴人の承諾を得ることなく、第三者であるE社に対し伐木を売り渡す契約を締結し手付金を受領したほか、当該伐木を担保として信用金庫から借入を行った。これに対し、控訴人は留置権消滅請求の意思表示をした。
事件番号: 昭和39(オ)748 / 裁判年月日: 昭和40年7月15日 / 結論: 破棄差戻
一 修理工場を設けて自動車の修理業を営む会社が自動車の修理によつて得た修理料債権は、民法第一七三条第二号所定の居職人の仕事に関する債権にあたらない。 二 留置物の第三取得者も、民法第二九八条第三項により留置権の消滅を請求できる。
あてはめ
被控訴人は、本件伐木の留置権者でありながら、所有者である控訴人の承諾なく、第三者への売却契約の締結や、債務の担保としての提供といった行為を行った。これらは民法298条2項が禁じる承諾なき使用・担保提供に該当し、留置権者の義務違反が認められる。この場合、所有者である控訴人の消滅請求により、違反行為が既に終了していたとしても、また具体的な損害が生じたことを要さず、留置権は当然に消滅する。
結論
留置権者は保管義務等に違反したため、所有者による消滅請求によって留置権は消滅する。したがって、控訴人は被控訴人に対し、伐木の所有権に基づく返還請求等が可能となる。
実務上の射程
留置権者の善管注意義務違反や無断使用等があった場合、所有者からの消滅請求を認めるための要件を緩やかに解釈した判例である。答案上は、留置権の抗弁に対する再抗弁(消滅請求)として、義務違反の事実を摘示した上で、本判例を根拠に「違反行為の終了や損害の有無は問わない」と論じることで、消滅請求の成立を肯定する構成に用いる。
事件番号: 昭和39(行ツ)97 / 裁判年月日: 昭和43年11月7日 / 結論: 棄却
農地の買収処分に続いて売渡処分が完了した後においても、右買収処分が在村地主甲の自作地を不在地主乙の小作地と誤認してされたものであり、売渡の相手方が、当該農地について所有権移転登記を経由したが、その引渡を受けていない等判示の事実関係のもとにおいては、他に特段の事情がないかぎり、農業委員会は、前記の実体法上の違法を理由とし…
事件番号: 昭和33(オ)547 / 裁判年月日: 昭和34年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を時効取得した占有者は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した第三者に対し、登記がなければ時効による権利取得を対抗できない。また、当該第三者が時効取得の事実について悪意であっても、背信的悪意者と評価される特段の事情がない限り、同様である。 第1 事案の概要:1.上告人ら51名は、本件山…
事件番号: 昭和28(オ)620 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人の代理人であることを示さず、他人の物を自己の物として売却した場合であっても、所有者が予めその処分行為を承諾していれば、当該売買は有効であり、買受人は直ちに所有権を取得する。 第1 事案の概要:上告人(所有者)は、訴外Dに対し、本件立木について「Dの手において自ら他に売却すること」を委ねる旨の合…