信用組合の作成した貸出稟議書の所持者は,預金保険機構から委託を受け,同機構に代わって,破たんした金融機関等からその資産を買い取り,その管理及び処分を行うことを主な業務とする株式会社であり,経営が破たんした信用組合からその営業の全部を譲り受けたことに伴い,貸出稟議書を所持するに至ったものであること,その信用組合は,清算中であって,将来においても,貸付業務等を自ら行うことはないこと,所持者は法律の規定に基づいてその信用組合の貸し付けた債権等の回収に当たっているものであって,当該貸出稟議書の提出を命じられることにより,所持者において自由な意見の表明に支障を来しその自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとは考えられないことという事実関係等の下では,当該貸出稟議書につき,民訴法(平成13年法律第96号による改正前のもの)220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとはいえない特段の事情がある。
信用組合の貸出稟議書が民訴法(平成13年法律第96号による改正前のもの)220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとはいえない特段の事情があるとされた事例
民訴法(平成13年法律第96号による改正前のもの)220条4号
判旨
金融機関の貸出稟議書は原則として自己利用文書に該当するが、作成元の金融機関が破綻し、公的な債権回収機関が承継した場合には、提出により意思形成が阻害されるおそれが認められない等の特段の事情があるものとして、提出義務を負う場合がある。
問題の所在(論点)
破綻した金融機関の貸付債権を承継した債権回収機関が所持する「貸出稟議書」について、民訴法220条4号ハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(自己利用文書)」に該当し、提出義務が否定されるか。
規範
金融機関の貸出稟議書は、専ら内部利用目的で作成され外部開示が予定されないため、特段の事情がない限り、民訴法220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(自己利用文書)」に当たる。もっとも、①所持者が破綻金融機関から資産を買い取った公的な管理処分機関であること、②作成者が清算中で将来の貸付業務を行わないこと、③文書提出により所持者の自由な意思形成が阻害されるおそれがないこと等の「特段の事情」がある場合には、自己利用文書に当たらない。
事件番号: 平成11(許)35 / 裁判年月日: 平成12年12月14日 / 結論: 破棄自判
信用金庫の会員が代表訴訟において信用金庫の貸出稟議書につき文書提出命令の申立てをしたことは、当該貸出稟議書が民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない特段の事情とはいえない。 (反対意見がある。)
重要事実
D信用組合が経営破綻し、整理回収機構(抗告人)がその営業を譲り受け、貸金請求訴訟を提起した。被告側(相手方)は、D信による不当な担保抹消拒絶や「利貸し」等の不法行為に基づき相殺を主張し、その立証のためにD信が作成した稟議書等の文書提出命令を申し立てた。抗告人は、当該文書は自己利用文書であり提出義務がないと主張して抗告した。
あてはめ
本件文書は、本来は自己利用文書に該当し得る。しかし、(1)所持者である抗告人は預金保険法に基づき破綻機関の資産管理を行う機関であること、(2)作成者のD信は清算中で将来貸付業務を行う予定がないこと、(3)抗告人が提出を命じられても、抗告人自身の自由な意見表明や意思形成が阻害されるとは考えられないこと、が認められる。これらの事情は「特段の事情」を構成する。なお、この結論により現存する他金融機関の意思形成に及ぼす影響は、結論を左右するほどではない。
結論
本件稟議書については、自己利用文書に当たらない特段の事情が認められるため、抗告人は民訴法220条4号に基づき文書提出義務を負う。
実務上の射程
金融機関の稟議書の一般原則(原則として自己利用文書)を維持しつつ、破綻金融機関を承継した整理回収機構等の特殊性を踏まえた例外を認めた判例である。司法試験等の答案上では、稟議書の一般的性質を論じた上で、本件のように「承継・破綻・公的性格」という個別事実がある場合に提出義務を肯定する修正要素として活用すべきである。
事件番号: 平成11(許)2 / 裁判年月日: 平成11年11月12日 / 結論: 破棄自判
一 ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所…
事件番号: 平成17(許)39 / 裁判年月日: 平成18年2月17日 / 結論: 棄却
銀行の営業関連部,個人金融部等の本部の担当部署から各営業店長等にあてて発出されたいわゆる社内通達文書につき,その内容は,変額一時払終身保険に対する融資案件を推進するとの一般的な業務遂行上の指針を示し,あるいは,客観的な業務結果報告を記載したものであり,取引先の顧客の信用情報や銀行の高度なノウハウに関する記載は含まれてお…
事件番号: 平成23(行ト)42 / 裁判年月日: 平成23年10月11日 / 結論: 棄却
弁護士会の綱紀委員会の議事録のうち「重要な発言の要旨」に当たる部分は,次の(1)及び(2)の事情の下では,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当する。 (1) 当該弁護士会の会則等の内部規則において,綱紀委員会の議事及び議事録は非公開とされており,綱紀委員会の議決に基づき懲戒委員会…
事件番号: 平成19(許)5 / 裁判年月日: 平成19年11月30日 / 結論: 破棄差戻
銀行が,法令により義務付けられた資産査定の前提として,監督官庁の通達において立入検査の手引書とされている「金融検査マニュアル」に沿って債務者区分を行うために作成し,保存している資料は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。