道路交通法七二条一項前段にいう「負傷者」とは、死亡していることが一見明白な者を除き、車両等の交通によつて負傷したすべての者を含む。
道路交通法七二条一項前段にいう「負傷者」の意義
道路交通法72条1項前段,道路交通法117条
判旨
道路交通法72条1項前段にいう「負傷者」とは、死亡していることが一見明白な者を除き、車両等の交通によって負傷したすべての者を含む。人の死の判定は困難であり、交通事故の際にとっさの判定を強いることは不合理であるため、一見明白な場合を除き救護措置を義務付けるのが立法の趣旨に合致する。
問題の所在(論点)
道路交通法72条1項前段に定める「負傷者」の意義、とりわけ即死したと思われる者に対しても救護義務を負うか。また、同条の「負傷者」に死亡者が含まれるかという要件解釈が問題となる。
規範
道路交通法72条1項前段の「負傷者」とは、死亡していることが一見明白な者を除き、車両等の交通によって負傷したすべての者をいう。救護義務を課す立法の趣旨は被害者の救助を全うすることにあり、人の死の判定が困難である以上、現場での判断により救護の要否を左右させるべきではないからである。
重要事実
被告人が車両を運転中に交通事故を起こした際、被害者が負傷した。当該事案において、被害者が既に死亡していた可能性、あるいは被告人が死亡したと判断した事情があったが、被告人は救護措置を講じなかったため、道路交通法違反(救護義務違反)等の罪に問われた。
事件番号: 昭和37(あ)2864 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
自動三輪車の運転者が、前方注視業務を怠つた過失により、道路上において歩行者に衝突し、同人を附近用水路に顛落させて頭部打撲挫創等の重傷(約三時間後に死亡)を負わせた場合、直ちに車の運転を停止して近所の人に援助を求め、同人等と協力して被害者を用水路より道路上に引き上げたが、その事故の重大であることに気づいて現場より逃れよう…
あてはめ
本件において、被害者が負傷した事実がある以上、たとえ後に死亡が確認されたとしても、その死亡が「一見明白」といえる特段の事情がない限り、被告人は「負傷者」に対する救護義務を免れない。人の死の判定は至難であり、とっさの間に運転者がこれを行うことは期待できないため、生存の可能性が否定できない以上は直ちに救護の措置をとるべきである。
結論
死亡が客観的に一見明白である場合を除き、事故による被害者はすべて「負傷者」に含まれるため、救護義務違反が成立する。
実務上の射程
救護義務の対象範囲を広汎に認めるものであり、答案上は「負傷者」の定義として本判例の規範を引用する。死亡が確実であっても、外形上明白(例:首が切断されている等)でない限り、救護義務を認めるべきとする論証に活用できる。また、業務上過失致死罪と酩酊運転の罪は併合罪の関係にあるとする判断も実務上重要である。
事件番号: 昭和37(あ)1918 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 破棄自判
車両等の運転者等が、交通事故を起しながらいわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段の救護等の義務違反の罪と同項後段の報告義務違反の罪とが成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(あ)第五〇二号、同三八年四月一七日宣告)の示すところである。してみると、これ…
事件番号: 昭和38(あ)10 / 裁判年月日: 昭和39年9月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】交通事故(いわゆる「ひき逃げ」)において、車両等の運転者が負う道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が車両等の運転中に交通事故を起こしたが、負傷者を救護する等の措置を講じず、かつ警察官等への報告も行わずに現場から立…
事件番号: 昭和47(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和48年2月15日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号の規定が憲法三八条一項に違反するものでないことは等裁判所大法廷判決(昭和三五年(あ)第六三六号同三七年五月二日言渡、刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に徴し明らかである。
事件番号: 昭和46(あ)1143 / 裁判年月日: 昭和46年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段の規定による報告義務は、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項の供述を強制するものではないから、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は自動車の運転中に事故を起こしたが、道路交通法72条1項後段に規定された警察官への報告義務を履行しなかった。これに対し…