判旨
就業規則の変更により賃金等の重要な労働条件を労働者に不利益に変更する場合、その効力が発生するためには、当該変更が労働者に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることを要する。本件の定年延長に伴う賃金減額は、定年延長という社会的要請や経営上の高度の必要性があり、かつ組合との合意等も経ていることから、経過措置がなくても合理性を有し有効である。
問題の所在(論点)
就業規則の変更によって、労働者が従前の制度(定年後在職制度)に基づき期待していた賃金水準を不利益に変更することが、労働契約法(制定前だが判例法理として)上の「合理性」を具備し、有効といえるか。
規範
就業規則の変更による不利益変更の適法性は、規則条項が「合理的なものであるか」により判断される。賃金・退職金等の重要条件に実質的不利益を及ぼす場合は、高度の必要性に基づいた合理的内容であることが必要である。合理性の有無は、①不利益の程度、②使用者側の変更の必要性の内容・程度、③変更後の内容自体の相当性、④代償措置・関連する労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯、⑥社会における一般的状況等を総合考慮して判断する。
重要事実
銀行である被告は、従来55歳定年後も希望者を58歳まで再雇用(定年後在職制度)しており、男子行員の約9割がこれを利用していた。その後、社会的・行政的な60歳定年延長の要請を受け、組合との合意に基づき定年を60歳に延長する就業規則変更を行った。代償として雇用期間は延びたが、55歳以降の賃金水準は54歳時の約6割程度に低下し、定期昇給も停止された。55歳を目前に控えていた原告は、従前の制度より賃金総額が減少するとして不利益変更の無効を訴えた。
あてはめ
①原告の不利益は、期待していた賃金総額が数百万単位で減少する点で大きい。しかし、②60歳定年延長は国家的・社会的要請であり、被告の中高年齢層の比率の高さや収益力の停滞から、人件費抑制のための変更の必要性は高度であった。③変更後の賃金水準は他行や社会一般と比較して高い部類に属し相当性がある。④女子行員の定年延長や福利厚生の拡充等の改善もあり、⑤従業員の9割が加入する組合との交渉・合意を経ており、利益調整がなされている。⑥経過措置がない点は不十分だが、一律処理を旨とする就業規則の性質や既得権侵害とまではいえない点を踏まえれば、合理性を否定するまでには至らない。
結論
本件就業規則の変更は、実質的な不利益を考慮してもなお高度の必要性に基づいた合理的なものといえ、原告に対しても有効である。
実務上の射程
不利益変更法理における「総合考慮」の枠組みを決定付けたリーディングケースである。特に、不利益が「賃金」という重要事項である場合に「高度の必要性」を要求する点や、多数派労働組合との合意が「合理性」の有力な推認要素となる点において、実務・答案上の射程は極めて広い。
事件番号: 平成8(オ)1677 / 裁判年月日: 平成12年9月7日
【結論(判旨の要点)】就業規則の変更により賃金等の重要な労働条件を労働者に不利益に変更する場合、その効力が発生するためには、不利益を法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることを要する。 第1 事案の概要:地方銀行である被上告人は、高コストな経営体質と人員構成の高齢化を改善するため…
事件番号: 昭和40(オ)145 / 裁判年月日: 昭和43年12月25日 / 結論: 棄却
一、使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によつて、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである。 二、従来停年制のな…