判旨
売買契約の成立において、買主が特定の者を売主として契約を締結したと認められる場合には、当該特定の者が目的物の所有権を有するか否かにかかわらず、その者が契約の当事者となる。
問題の所在(論点)
売買契約における当事者の確定にあたり、売主が目的物の所有権者であることが、契約の相手方を特定するための必須要件となるか。
規範
売買契約の当事者の確定は、契約締結の際の当事者の意思表示を客観的に解釈することによって決せられる。具体的には、誰を売主(または買主)として契約を締結したかという主観的態様に基づき判断すべきであり、売主が目的物の所有権者であることは、契約当事者の確定において必ずしも必要とされない。
重要事実
被上告人は、本件自動車を購入するに際し、訴外Dを売主として売買契約を締結した。これに対し、上告人は、自身が当該契約の相手方である旨を主張したが、原審は証拠に基づき、被上告人がDを相手方として契約を締結した事実を認定した。上告人は、Dが所有権者でないこと等を理由にこの認定を不服として上告した。
あてはめ
本件において、被上告人は本件自動車の買受けに際し、訴外Dを売主として明確に契約を締結している。この事実は証拠により是認される。売買契約は当事者間の合意によって成立するものであり、Dが本件自動車の所有権を有しているか否かは、被上告人とDとの間で契約が成立したという認定を左右するものではない。したがって、契約の相手方は上告人ではなくDであると解される。
結論
売買契約の相手方は、客観的に売主として認識・合意された訴外Dであり、上告人を相手方とした契約の成立は認められない。
実務上の射程
契約当事者の確定に関する一般原則を示しており、特に他人の権利の売買(民法560条等)が想定される場面において、所有権の帰属が直ちに契約当事者の認定を規定しないことを確認する際に活用できる。事実認定の専権事項に関する判示としての側面も強い。
事件番号: 昭和33(オ)743 / 裁判年月日: 昭和37年5月18日 / 結論: 破棄差戻
売主が商人であるとしても、単にそれだけで取引の相手方のためにも商行為が成立し、商法第五一一条第一項が買主側に適用されるとはかぎらない。