令和7年 司法試験 論文式試験 労働法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。なお、不正競争防止法(平成5年法律第47号) の適用について検討する必要はない。 【事 例】 1 Y社は、バイアウト投資(企業に投資し、同時にその経営に関与するなどしてその企業価値を 高めた後、当該企業を売却し利益を得る形態の投資)事業等を営む会社である。Xは、女性であ り、海外の大学院で修士号を取得後、金融機関での勤務を経て、平成24年4月に、Y社に期間 の定めなく雇用された労働者である。 XとY社との労働契約においては、Y社の就業規則所定の月例賃金、賞与及び退職金を支給す ることのほか、「労働者(ここではXのことをいう。)は、Y社を退職後1年が経過するまでの 間、Y社による事前の同意なく、バイアウト投資事業を営む他の会社・団体等に就職せず、また、 同事業遂行のための業務に従事しない。」との条項(以下「本件条項」という。)が存在した。 Y社の就業規則(必要な手続を経て作成され、労働者に周知されていた。)では、月例賃金は、 基本給及び役職手当からなること、賞与は、年度ごとに各労働者の業績を評価して決定した額を 支給すること、退職金は、退職時の基本給に、勤続年数が長くなるに従い逓増する支給率を乗じ て計算した額を支給することが定められていた。また、関連する規定として、本件条項に違反し た者については、上記の方法で計算された退職金の半額を支給しないとの規定(以下「退職金支 給制限条項」という。)があった。 2 Xは、Y社において、案件(投資先となる企業)の発掘や、投資先の管理の業務等を行う部門 (以下「投資部門」という。)に存在する5つのグループの1つに所属し、グループの長(以下 「マネジャー」という。)の役職にある者として、部門長(以下「ディレクター」という。)の 指示を受けつつ、所属グループの他の労働者(以下「アソシエイト」という。)を率いて上記業 務に従事していた。各グループに所属するマネジャー及びアソシエイトは、いずれも、Y社のイ ントラネット上にあるフォルダにアクセスすることにより、投資先となる企業の情報等を得るこ とができるとともに、上記業務を通じて、Y社における投資検討先企業の情報の分析手法等、Y 社のバイアウト投資のノウハウを知ることが可能であった。令和3年度初頭におけるXの月例賃 金は85万円(基本給70万円、役職手当15万円)であった。また、後述する産前産後休業及 び育児休業を取得していた時期が含まれる年度は別として、Xは、Y社に雇用されていた間、良 好な業績を上げており、賞与として、各年度、おおむね300万円が支給されていた。 3 Xは、令和3年5月に妊娠していることが分かり、同年12月下旬から産前休業を取得して令 和4年2月初旬に子を出産した後、同年2月及び3月は産後休業を、同年4月から令和5年3月 末までの1年間は育児休業をそれぞれ取得し、同年4月から復職した。復職に先立つ面談におい て、Y社の投資部門のディレクターであるAは、Xに対し、「幼児を育てつつマネジャーとして アソシエイトを率いて同部門の業務に従事することは、会社にとっても、Xにとっても困難が多 いと考えている。」との意見を述べるとともに、「Xに産前産後休業及び育児休業を取得した1 年を超えるブランクがあり、その間に、X所属のグループでは、Xが産前休業を取得した際にア ソシエイトであったBがマネジャーの役職に就いてポストが埋まっていることを考慮すると、マ ネジャーの役職を外れ、アソシエイトとしての復職とならざるを得ない。」と告げた。Aは、X が復職後、再びマネジャーの役職に戻ることができるか否か、できるとして、その時期や条件等 の見通しについては、言及しなかった。Xは、育児休業等取得に先立ち、マネジャーの役職を外 れての復職となることについてAから聞いておらず、かえって同僚から普通は元の役職で復職す ると聞いていたこと、育児休業等取得中もできる限りバイアウト投資に関する情報収集を行うな どブランクが大きくならないよう努めたことから、上記面談におけるAの説明に驚くとともに、 その内容にも到底納得できなかった。しかし、Xは、ともかく現実に仕事に復帰することを優先 させようと考えたことや、小さな子を育てる中で、マネジャーとしての復職に否定的なAと交渉 を続けることによる精神的負担を増やすことに強い不安があったことから、やむなく、マネジャ ーの役職を外れることに異議を留保したり、マネジャーの役職に戻る見通し等について自分から 説明を求めたりすることなく、アソシエイトとして復職することを受け入れた。アソシエイトと して復職後のXの月例賃金は70万円(基本給70万円、役職手当なし(0円))で、賞与は変 わらず、各年度おおむね300万円であった。 4 Xは、こうした復職の経緯から、子を育てつつ、Y社においてキャリアを積み重ねていくこと には期待できないと考えるようになり、アソシエイトとして投資部門の所属グループにおける業 務に従事しつつ、令和5年6月以降、業務外の時間を使って転職活動を行うようになり、令和6 年2月下旬に、Y社と同様にバイアウト投資事業を営むC社に同年4月から採用されることが内 定した。この間、Xは、同年2月上旬、Bから、Bが自己の人脈を使って得た情報として、Y社 が1年ほど前から投資先の候補として関心を持っていたD社(E社を中核とする企業グループに おけるE社の子会社)について、E社が売却を検討しているとの情報を知らされた。同時に、X は、Bから、「B及びXが所属するグループの方針として、D社への投資案件を最優先案件の1 つとし、E社に受け入れられる投資提案を策定することとした。」旨を伝えられた。 5 Xは、令和6年3月末でY社を退職し、Y社から同年4月末、退職金として350万円の支給 を受けた。Xは、同年4月より、C社の投資部門においてバイアウト投資先企業開拓の業務に従 事するようになった。C社は、Y社と同じく、D社への投資を目指しており、Xは、同年5月か ら当該投資案件を担当するようになった。同年7月、Y社及びC社の双方が、E社に対し、D社 への投資(D社の株式の公開買付け)について提案を行ったが、採用されたのはXが担当したC 社の提案であり、Y社はD社への投資機会を逃すこととなった。Y社は、この顛末を通じ、Xに 本件条項に違反する行為があると考えるに至った。 〔設 問〕 1 Y社は、令和6年8月、Xに本件条項に違反する行為があり、退職金支給制限条項に照らすと、 Xに支給された退職金の半額は不当利得であるとして、その返還を請求する訴訟を提起した。当 該請求は、認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。 2 Xは、令和5年4月にアソシエイトとして復職することとされ、同月以降、役職手当が0円と なったことは不当であると考え、同月以降退職時まで、毎月15万円の役職手当の支払を求めて、 令和6年8月に訴訟を提起した。当該請求は、認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、 あなたの意見を述べなさい。