令和7年 司法試験 論文式試験 国際関係法(私法系) 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 甲国人Xは、甲国の工科大学を卒業した後、情報システムの開発や保守等の業務を行っている甲 国法人Y社と労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結してY社の従業員となった。本件 労働契約の内容を記載した契約書(以下「本件契約書」という。)には、1本件労働契約に関する 一切の紛争は、甲国の裁判所における裁判によって解決し、他の国の裁判所において裁判を行わな い旨の条項(以下「1条項」という。)、2本件労働契約の準拠法を甲国法とする旨の条項(以下 「2条項」という。)等が定められていた。 Y社の顧客である日本法人A社は、日本国内に主たる営業所と複数の従たる営業所を有するほか、 乙国内にも営業所(A社乙国支店)を有する。A社は、A社の日本国内の営業所を統括するA社統 合システムのほかに、乙国の言語と取引慣行に最適化したA社乙国支店のための独自のA社乙国用 システムも有している。A社からY社へのシステム管理等の委託料は、甲国内に所在する銀行のY 社名義の口座に振込送金されていた。 Xは、Y社に入社後、甲国内に所在するY社の主たる営業所に勤務し、A社のシステムの開発や 保守等の業務に遠隔で従事していた。Xの入社1年後に、A社がA社統合システムの抜本的な改修 を行うことになったため、Y社は、Xに対し、日本国内に転居してA社統合システムの改修作業に 従事することを命じ、Xは日本に赴任した。Xは、A社統合システムの抜本的な改修作業が完了し た後も、主に当該システムの小規模な改修や保守等の業務に従事しており、来日してから現在まで 計7年間ほど日本で生活している。また、Xは、A社乙国用システムの保守等の業務にも日本から 遠隔で従事しつつ、年に数度、短期間で甲国内に所在するY社の主たる営業所やA社乙国支店に出 張することがあった。Y社からXへの給与は、甲国内に所在する銀行のX名義の口座に振込送金さ れていた。 A社統合システムについて再度抜本的な改修が行われ、Xは、連日、深夜まで勤務していたとこ ろ、A社乙国用システムが急に不安定になったことから、Y社は、Xに対し、深夜便でA社乙国支 店に出張して、システムの不具合を大至急修復するよう命じた。Xは、乙国の空港に到着後、A社 乙国支店に自動車で向かう途中で交通事故(以下「本件事故」という。)に遭い、大けがをした。 Xは、乙国の病院で応急処置を受けた後、Xの希望により搬送された日本の病院で手術と治療を受 けた。 以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、〔設問1〕と〔設問2〕は独立した 問いである。 〔設問1〕 本件事故は、Y社が乙国の空港にあるレンタカー会社に予約手配していたレンタカーをXが運 転していた際にX自身が起こしたものであった。Xは、連日の深夜勤務と、乙国への出張のため に深夜便を利用したことによる疲労が本件事故の原因であり、Y社に安全配慮義務(労働契約法 (平成19年法律第128号)第5条)の違反があったと主張し、Y社を被告として、本件事故 に基づく損害賠償として、日本の病院での手術や治療に要した費用等の支払を求める訴え(以下 「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。 なお、甲国法及び乙国法のいずれも、被用者は、雇用主に対し、安全配慮義務違反を理由とす る損害賠償請求を行うことができない旨の規定を有している。 〔小問1〕 本件訴えにおいて、Y社は、本件契約書の1条項を援用し、日本の裁判所の国際裁判管轄権 がないため、本件訴えが却下されるべきであると主張している。本件訴えについて、日本の裁 判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。 〔小問2〕 本件訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められたとする。Y社は、本件契約書 の2条項を援用して、Xの請求には甲国法が適用されるため、労働契約法第5条が適用されな いと主張している。このY社の主張が認められるかどうかについて論じなさい。 〔設問2〕 本件事故は、乙国の空港に迎えに来ていたA社乙国支店の従業員C(出生以来、乙国に居住し ている。)が運転操作を過って起こしたものであった。Xは、Cを雇用しているA社に使用者責 任が認められると主張し、A社を被告として、本件事故に基づく損害賠償として、日本の病院で の手術や治療に要した費用等の支払を求める訴えを日本の裁判所に提起した。この訴えについて 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるものとする。 Xの請求が認められるかどうかの問題に、いずれの国の法が適用されるか論じなさい。