令和7年 司法試験 論文式試験 刑事系科目 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
〔第1問〕(配点:100) 【事例1】及び【事例2】を読んで、〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例1】 1 甲(男性、当時20歳)は、私立A大学(以下「A大」という。)への入学を志望していたが、 その入学試験(以下「入試」という。)直前の模擬試験では、A大への合格可能性は著しく低い 旨判定された。甲は、いわゆる替え玉受験をしてでもA大に合格したいと考え、別の難関大学に 進学していた友人乙(男性、当時20歳)の顔立ちが甲と似ていたため、令和3年2月1日、乙 に対し、「後でアルバイトをして50万円を払うから、俺の替え玉でA大の入試を受けてく れ。」と言い、報酬として50万円を提示した上で甲に成り済ましてA大の入試を受けてほしい 旨依頼し、乙の了承を得た。 A大の入試では、受験番号が氏名に代わる受験生識別の手段として用いられており、入試の解 答用紙に氏名の記載欄はなかった。乙は、同月20日、A大の入試会場において、甲に成り済ま して小論文試験の解答用紙(以下「本件用紙」という。)に甲の受験番号である「A123」を 記載した上で解答を記入し(以下「本件作成行為」という。)、本件用紙をA大に提出した。本 件用紙の採点結果に基づき、甲について合格の判定がなされてA大への入学が許可され、甲は、 同年4月10日、A大に入学した。 2 乙は、上記報酬の一部を早く手にしたいと考え、同月20日、甲に対し、「5万円くらいのも のを買うから、お前のクレジットカードを貸してほしい。俺が使った分は、報酬の50万円から 差し引くから。」と言い、上記報酬の一部として乙が甲名義のクレジットカードを利用して5万 円相当の物品を購入し、後日、その利用分について甲に決済してもらいたい旨要求した。甲は、 5万円程度であればクレジットカード(以下「カード」という。)の利用代金支払日までにアル バイトをして工面できると考え、乙に対し、上記要求に応じる旨を伝え、甲名義のカード(裏面 に「甲」と署名があるもの。以下「本件カード」という。)を手渡すとともに、その暗証番号を 教示した。 乙は、同月21日、本件カードの加盟店であるB店において、店員Cに対し、販売価格5万円 の腕時計の購入を申し込んだ。その際、乙は、甲に成り済まして本件カードをCに提示し、B店 に設置されたカード決済端末機に本件カードを差し込み、その暗証番号を入力した。Cは、乙が 入力した暗証番号が正しいものとして認証されたため、乙が甲本人であり、本件カードの正当な 利用権限を有していると信じ、乙に対し、上記腕時計を交付した。なお、本件カードの会員規約 において、会員は、他人にカードを利用させてはならず、貸与等によりカードの占有を他人に移 転することを禁じる旨が定められていた。また、本件カードの加盟店規約において、加盟店は、 善良な管理者の注意義務をもって、カードを提示した者とカードの名義人の同一性を確認するこ となどが定められており、B店では名義人以外の者によるカードの利用には応じないことにして いた。 甲は、アルバイトにより5万円を工面して甲名義の預金口座に入金し、同年6月10日、同口 座から上記腕時計についての本件カード利用分5万円が引き落とされた。甲は、これ以降もアル バイトをして、乙に対し、上記報酬の残金45万円を支払った。 〔設問1〕 【事例1】における甲及び乙の罪責に関し、以下の(1)から(3)に答えなさい。 (1) 乙に有印私文書偽造・同行使罪が成立するとの立場から、その結論を導くために、どのような 説明が考えられるか。特に本件作成行為が「偽造」に当たるかについて、文書の名義人及び作成 者の意義をそれぞれ明らかにした上で、株式会社Xの取締役Yがその秘書Zに命じて取締役Y名 義の文書を作成させた場合と比較しつつ論じ、その他の成立要件についても言及しなさい。 (2) 乙に詐欺罪が成立するとの立場から、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか。 特に「人を欺く行為」の意義を明らかにした上で、乙の行為は「人を欺く行為」に当たらないと の立場に反論しつつ論じ、その他の成立要件についても言及しなさい。 (3) 甲に乙との間で有印私文書偽造・同行使罪及び詐欺罪の共同正犯が成立するとの立場から、そ の結論を導くために、それぞれどのような説明が考えられるか。本件用紙に甲の受験番号である 「A123」が記載され、本件カードが甲名義であるにもかかわらず、甲に共同正犯が成立する 理由に触れつつ論じなさい。 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。) 3 甲は、令和3年6月20日、かねてから交際していた丙(女性、当時20歳)と婚姻した。甲 は、令和4年6月30日、丙との間に長男Dをもうけ、その頃から、マンションの一室(6畳居 間及び6畳寝室の2部屋。以下「本件居室」という。)において、丙及びDと同居するようにな った。丙は、令和6年(以降の月日はいずれも令和6年)2月1日、産婦人科を受診したところ、 妊娠3か月であることが判明し、これを甲に伝えた。 甲は、4月1日、本件居室の居間において、Dの行儀が悪いことに苛立ち、丙の眼前で、Dの 顔面を拳で殴った。丙は、身を挺して甲を制止したところ、甲は、更に激高し、「ここから出て 行け。」と怒鳴りながら丙の顔面を拳で殴ったが、Dに対して更に暴行を加えることはなかった。 また、甲は、胎児への影響を考え、丙の腹部に暴行を加えることはなかった。なお、D及び丙は、 甲による上記各暴行により、それぞれ全治約2週間を要する顔面打撲の傷害を負った。 丙は、同日、Dを連れて実家に戻ったが、5月1日、丙の実家を訪れた甲からよりを戻したい 旨懇願され、甲に愛情を抱いていたため、これに応じた。甲は、同日以降、本件居室において、 丙及びDとの同居を再開し、これ以降、7月1日までの間、丙及びDに暴行を加えることはなか った。 4 甲は、7月1日午後7時頃、本件居室内のトイレに丙(妊娠8か月)が入っていた際、居間に いたD(当時2歳)の行儀が悪いことに苛立ち、Dに対し、「まだ分からないのか、殴るぞ。」 と繰り返し怒鳴ったところ、Dが泣きわめいて食器を床に投げ付けた。そのため、甲は、激高し て、約5分間にわたり、怒鳴りながら、Dの頭部を拳で強く十数回殴り(以下「本件暴行」とい う。)、これによりDに硬膜下血腫を生じさせ、Dの意識を喪失させた。 5 丙は、トイレから出ようとした際、上記の「まだ分からないのか、殴るぞ。」という甲の怒鳴 り声が聞こえたため、甲がDに4月1日と同様の暴行を加えるかもしれないと思った。 このとき、丙が居間に戻って甲がDに本件暴行を加えないように監視したり言葉で制止したり する行為(以下「1行為」という。)に及んでいれば、本件暴行を阻止できる可能性は相当程度 あったが、本件暴行を確実に阻止できる状況にはなかった。また、丙が1行為に及んだとしても、 甲が丙に暴行を加える蓋然性は高くなかった。一方、4月1日と同様に丙が身を挺して甲を制止 する行為(以下「2行為」という。)に及んでいれば、本件暴行を確実に阻止できる状況にあっ た。また、丙が2行為に及んだとしても、甲が丙の腹部に暴行を加える蓋然性は高くなかったが、 甲が丙に4月1日と同様の暴行を加える蓋然性は高かった。丙は、これらについて認識した上で、 1行為や2行為に及ぶことで甲から暴行を加えられたり甲から嫌われたりしたくないと思い、ト イレから出ずに様子をうかがっていたところ、その後も甲の怒鳴り声が聞こえたため、甲がDに 暴行を加えているのだろうと思ったが、そのままトイレ内にとどまった。 6 丙は、甲の怒鳴り声が聞こえなくなったため、トイレから出て居間に戻ったところ、意識を喪 失しているDを発見した。丙は、本件居室から徒歩10分の距離にあるE大学附属病院(以下 「E病院」という。)でDの治療をしてもらうため、呆然として立ち尽くしていた甲を残し、D を抱えて本件居室を出た。 丙は、Dを抱えて徒歩でE病院に向かっていたところ、7月1日午後7時15分頃、後方から 走行してきた自動車の運転手が居眠りをして同車を道路左側に進出させたことにより、Dもろと も同車に衝突された。間もなくして救急車が到着し、丙及びDはE病院に搬送され、丙は治療を 受けて一命を取り留めたが、DはE病院到着時には既に死亡していた。Dの死因は、上記衝突に よって生じた肝臓破裂による失血死であった。Dは、適切な治療を受けなければ、上記硬膜下血 腫に起因する脳機能障害により本件暴行から約6時間後に死亡していたが、上記衝突がなければ、 同日午後7時20分頃にはDを抱えた丙がE病院に到着し、適切な治療を受けることにより救命 は確実であった。 〔設問2〕 【事例2】における甲及び丙の罪責を論じなさい(特別法違反の点は除く。)。