令和7年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第3問
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〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:25:40]) 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和7年1月1日現 在において施行されている法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 1.Aは、令和5年3月30日に死亡し、Aの相続人は、Aの妻であるY、AとYとの間の子であ るX及びBの3名のみであった。Aが生前にYと居住していた建物(以下「本件建物」とい う。)については、令和2年1月24日、売買を原因とするCからYへの所有権の移転の登記が されていた。 2.Xは、令和5年5月に行われたAの遺産分割協議において、Yに対し、本件建物がAの遺産に 属する旨を主張したが、Yは、本件建物はYがCから買い受けたものであり、Aの遺産には属し ないと主張したため、遺産分割協議は成立しなかった。 3.Xは、本件建物がAの遺産に属することを確定させるため、Yを被告として、民事訴訟を提起 しようと考えた。 以下は、Xから相談を受けた弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。 L1:Xは、Yに対し、どのような訴えを提起すればよいでしょうか。 P:本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴えを提起すればよいと思います。 L1:なるほど。それでは、まず、遺産確認の訴えを提起する方法について検討してみましょう。 P:判例(最高裁判所平成元年3月28日第三小法廷判決・民集43巻3号167頁)によれば、 遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者となることを要する固有必要的共同訴訟とされて いますから、X及びYのみならず、Bも当事者とする訴えを提起する必要があります。 L1:そうですね。それでは、遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解される根拠を、上記判例 を踏まえつつ説明してください。これを「課題1」とします。 P:承知しました。 L1:次に、Xによれば、遺産確認の訴えを提起することにつき、Bは、「自分も本件建物がAの 遺産に属すると思っているが、現段階では、訴えを提起することには反対である。もう少しY と話合いをすべきである。」と言って譲らないということです。そのような場合でも、遺産確 認の訴えを提起できるでしょうか。 P:判例には、提訴しようとする当事者の訴権の保護などを根拠に、入会集団の構成員のうち提 訴に同調しない者を被告に加えて、固有必要的共同訴訟である入会権確認の訴えを提起するこ とが許されるとしたものがあります(最高裁判所平成20年7月17日第一小法廷判決・民集 62巻7号1994頁)。本件でも、Xは、Bを被告に加えて遺産確認の訴えを提起すればよ いと思います。 L1:そうですか。しかし、この判例は、ある土地が入会集団の入会地であることの確認を求める 訴えに関するもので、原告となった入会集団の構成員以外の構成員が、その土地は入会地では ないと主張して提訴に同調しなかったという事案のようです。このことからすると、本件のよ うにXとBとの間で本件建物がAの遺産に属することにつき争いがない場合でも、この判例と 同様にBを被告に加えて遺産確認の訴えを提起することに問題はありませんか。 P:はい・・・。確認の利益があるといえるかが問題になるように思います。 L1:そうですね。そこでPさん、XがBを被告に加えて本件建物につき遺産確認の訴えを提起し た場合に、その訴えには確認の利益があるという方向で検討してみてください。その際には、 確認の利益が認められるか否かを判断するための一般的な基準を示した上で、それを本件事例 に即して当てはめてください。これを「課題2」とします。 P:承知しました。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。 なお、以下に掲げる【事例(続き・その1)】及び【事例(続き・その2)】に記載されている事 実関係は考慮しなくてよい。 【事 例(続き・その1)】 4.Bは、Xの説得により、Xと共同原告となって遺産確認の訴えを提起することとした。そこで、 X及びB(以下「Xら」という。)から訴訟委任を受けたL1は、令和6年2月、Yを被告とし て、本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「本件訴 訟」という。)を提起した。 5.L1は、本件訴訟に係る訴えの提起に先立ち、Cから事情を聴取したところ、Cは、本件建物 につき、令和2年1月24日にCがAに代金700万円で売却したもので、Yはその買主ではな いこと、AとCは、同日、売買契約書を2通作成し、その際に、契約当事者としてそれぞれ署名 押印し、1通ずつ保管したこと、Cが保管していた売買契約書は、同年3月に焼失してしまった こと、Cが令和5年5月頃、Yから同契約書の存否について聞かれた際に、同契約書が焼失した 旨、Yに答えたことなどを話した。 6.Xらは、本件訴訟の口頭弁論の期日において、請求原因として、本件建物はCが令和2年1月 24日に所有していたこと、Aが同日、本件建物を代金700万円でCから買い受けたこと、そ の後、Aが死亡し、その相続人は、Aの妻であるY、AとYとの間の子であるXらであること、 Yは本件建物が遺産に属することを争っていること(以下、これらの事実を「本件請求原因事 実」という。)を主張した。また、Xらは、請求原因に関連する事実として、上記売買の際、A とCは、売買契約書を2通作成し、それぞれ署名押印し、1通ずつ保管したこと、Yを本件建物 の所有権の登記名義人にしたのは便宜上のものにすぎないことなどを主張した。 7.これに対し、Yは、弁護士L2を訴訟代理人に選任した上で、口頭弁論の期日において、本件 建物をCが令和2年1月24日に所有していたことは認めるが、同日に本件建物をCから買い受 けたのはAではなくYであると主張して、AC間の本件建物の売買契約締結の事実を争った。 8.本件訴訟は、令和6年4月、弁論準備手続に付されたが、L1は、その弁論準備手続の期日に おいて、AがCから本件建物を買い受けたことを証明するため、L2に対し、本件建物内に保管 されていると思われるAC間の本件建物の売買契約書(以下「本件契約書」という。)の存否を 尋ねたところ、L2は、「そのような契約書はもともと存在しないとYから聞いており、仮にそ のような契約書があったとしても、Yはそれを提出する義務を負わない。」と述べた。また、同 期日に出頭していたYは、「Aの死亡後の令和5年夏頃に、本件建物内のAの身の回りの物を廃 棄処分した。」と発言した。 9.そこで、L1は、本件契約書は既に廃棄されている可能性があると考え、Cに本件訴訟で証人 になってもらうべく連絡を取ろうとしたところ、Cは令和6年3月に死亡していたことが判明し た。 以下は、L1とPとの会話である。 P:Cからの聴取結果によれば、本件契約書をAが保管していたことはほぼ確実であると思われ ます。それにもかかわらず、Yがそのような契約書はもともと存在しないと主張するのは不自 然、不合理であると言わざるを得ません。 L1:弁論準備手続の期日でのYの発言からすると、Yは、本件契約書を廃棄している可能性が高 いと思われます。そこで、Yが令和5年夏頃にAが保管していた本件契約書を廃棄していた場 合に、Xらとして、どのような主張をすることが考えられるでしょうか。 P:民事訴訟法第224条第2項に基づく主張が考えられます。その要件について、まず、本件 契約書についてYに提出義務があると思います。また、弁論準備手続の期日でのYの発言から すると、「Yが、Xらによる証拠申出を妨げる目的で、本件契約書を廃棄して滅失させた」と いうことができそうです。 L1:そうですね。ただ、仮に、民事訴訟法第224条第2項の要件を満たしているとしても、そ の効果は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることが「できる」(同条第1 項)ことにとどまります。そこで、裁判所に本件契約書の記載に関するXらの主張を真実であ ると認めてもらえるように、更に主張を補強してみましょう。まず、民事訴訟法第224条第 2項により、当事者がある証拠を保存せずに廃棄してしまった場合に、当該文書の記載に関す る相手方の主張を真実と認めることができることとされているのは、なぜでしょうか。その趣 旨を説明してください。 P:はい。民事訴訟法第224条第2項は、証明妨害の法理を具体化したものであると理解され ていますから、証明妨害の法理の趣旨が問題になります。その趣旨については、学説上様々な 見解があり、どれも説得力がありますが、私は、訴訟当事者間の信義則(同法第2条)に反す るという点に根拠を求めるのが妥当であると考えます。 L1:分かりました。それでは、そのような観点から検討してみましょう。まず、1証明妨害とは どのような行為を指すのかを簡潔に示した上で、2証明妨害がなぜ「訴訟当事者間の信義則に 反する」と評価できるのかを踏まえながら、そのような評価を基礎付ける要素として一般的に どのような点が挙げられるかを示してください。その上で、3Yが令和5年夏頃にAが保管し ていた本件契約書を廃棄していたことを前提に、本件において信義則違反という評価を基礎付 ける具体的事実を、【事例】及び【事例(続き・その1)】の事実関係に即して示し、信義則 違反が認められるとする主張をまとめてください。以上1から3までを「課題」とします。 P:承知しました。 〔設問2〕 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下 に掲げる【事例(続き・その2)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。 【事 例(続き・その2)】 10.裁判所は、本件訴訟の弁論準備手続を終結するに当たり、Xら及びYとの間で、本件訴訟にお ける争点はXらが主張するAC間の本件建物の売買契約の成否であると確認し、その後の口頭弁 論の期日において、弁論準備手続の結果が陳述された後に、証拠調べが実施された。 11.その結果、裁判所は、本件建物をCが令和2年1月24日に所有していたこと、同日にAがC から本件建物を買い受けたこと、便宜上Yを本件建物の所有権の登記名義人としたことが認めら れ、同日にYがCから本件建物を買い受けたとは認められないとの心証に至った。他方で、裁判 所は、1Yは、Aの生前に、Aと共に本件建物を利用して行う家業に長年従事していたこと、2 Aは、Y及びXらに対し、Yが自分を支えてくれていたことに深く感謝しており、自分が死んだ ら本件建物はYのものになる旨をしばしば話していたこと、3Yもそれに対して異を唱えず聞い ていたことも、それぞれ認められるとの心証を得ており、これら1、2及び3の各事実(以下 「本件各事実」という。)からすれば、遅くともAが死亡した令和5年3月30日までに、Aと Yは、AがYに本件建物を死因贈与することを黙示的に合意していたと認定することができると 考えるに至った。(ア)しかし、本件各事実については、XらもYも主張していなかった。 以下は、本件訴訟の担当裁判官Jと司法修習生Qとの会話である。 J:本件訴訟の進行として、裁判所が、口頭弁論を終結し、本件各事実を認定して、Xらの請求 を棄却する旨の判決をすることに問題はありますか。 Q:弁論主義との関係で問題があると考えられます。 J:そうですね。それでは、この点について検討してみましょう。まずは、弁論主義といっても その内容にはいくつかの点が含まれますから、そのうちどの点が本件訴訟で問題になるかを明 らかにしてください。次に、本件各事実は、いわゆる黙示の意思表示を基礎付ける事実であり、 これは実務的には主要事実に該当すると解するのが一般的ですから、本件各事実が本件請求原 因事実(【事例(続き・その1)】6.)に対する抗弁になることを、主要事実及び抗弁の意 義を明らかにした上で述べてください。これらを「課題1」とします。なお、「課題1」につ いて、弁論主義の適用が主要事実に限定されるか否かを検討する必要はありません。 Q:承知しました。(イ)ところで、J裁判官は、証拠調べ実施後の口頭弁論の期日で、L2に対 し、「証拠調べの結果からすれば、AとYとの間で本件建物につきA死亡を原因とする黙示の 死因贈与契約が成立する可能性があると考えられますが、本件各事実について主張するつもり はありませんか。」と質問していました。これに対し、L2は、「本件建物の所有権移転登記 の登記原因がCからYへの売買となっていることから、そのような主張をする予定はない。」 と述べていました。このようなやり取りがあった場合には、裁判所がAからYへの黙示の死因 贈与契約の成立を認定することは、不意打ちにならず、弁論主義に反しない、ということはで きないでしょうか。 J:私はそのようには考えませんが、弁論主義の本質に関わる良い質問ですね。そこでQさん、 当事者に対する不意打ちにならないとしても弁論主義に反するとすれば、それはなぜかについ て、民事訴訟において弁論主義が採られる根拠に言及しつつ、明らかにしてください。これを 「課題2」とします。 Q:承知しました。 J:それともう一つ、下線部分(ア)及び(イ)とは異なり、本件各事実が、口頭弁論における当事 者の主張に含まれていたと仮定しましょう。この場合においては、AがYに本件建物を死因贈 与することをAとYとの間で黙示的に合意していたと判断しても弁論主義には反しないでしょ う。しかし、裁判所が、そのような判断をするに当たっては、当事者に対して、AのYへの黙 示の死因贈与契約という法的構成が採られる可能性があることを明らかにした上で、それを踏 まえた主張立証を検討するよう促すべきであるとも考えられます。そこで、上記仮定の下での 本件訴訟の手続経過や争点の所在を踏まえつつ、裁判所が当事者に上記検討を促すべきである とする立論をしてみてください。その際には、その根拠と理論構成についても明らかにしてく ださい。これを「課題3」とします。 Q:承知しました。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Qであるとして、Jから与えられた課題1、課題2及び課題3について答え なさい。