令和6年 司法試験 論文式試験 租税法 第1問
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〔第1問〕(配点:40) 東京都内の賃貸物件に居住するAは、平成29年10月1日、定年退職後の居宅の建築用地とし て、自らの出身地であるP県内の土地(以下「本件土地」という。)を、時価である3000万円 で購入し、同日、所有権移転登記を了した。 令和4年10月頃、Aは、令和5年3月末日の定年退職後に都内のスタートアップ企業であるQ 株式会社(以下「Q社」という。)が発行する株式を取得して経営に参画することが決まり、その ための資金が必要となったため、本件土地を急きょ売却することとした。そこで、Aは、P県在住 の旧友Bに、本件土地の売却話を持ち掛け、令和4年12月1日、Bとの間で、本件土地(当時の 時価4000万円)を以下の内容で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、 下記2記載の手付金を受領した。 1 本件土地の売買代金を3500万円とする。 2 買主Bは、売主Aに対し、手付金として300万円を、本件売買契約の締結時に支払う。こ の手付金は、解約手付と違約手付を兼ねるものとし、残代金が支払われた際に、売買代金の一 部に無利息にて充当する。 3 令和5年3月1日付けで、買主Bは、売主Aに対し、残代金3200万円全額を支払い、売 主Aは、買主Bに対し、本件土地を引き渡すとともに、その所有権移転登記手続に必要な書類 を引き渡すものとする。 令和5年2月に、Aは、Bから、残代金のうち2700万円を同年3月1日に現金で支払うとと もに、残りの500万円についても同年9月30日までには必ず支払うので、同年3月1日に本件 土地の引渡しを受けたい旨の申出を受けた。Aは、一抹の不安を覚えたものの、A自身が急ぎで資 金を必要として持ち掛けた話であり、Bが信頼のおける長年の友人であることから、Bの申出を受 け入れることとした。令和5年3月1日、Aは、本件土地の売買代金の一部としてBから現金27 00万円の支払を受け、手付金300万円を売買代金に充当するとともに、Bに対して、本件土地 の所有権移転登記手続に必要な書類を渡して、本件土地の引渡しも完了した。Bは、その後間もな く本件土地の所有権移転登記を了した。 ところが、Bは、令和5年9月30日になっても、残代金500万円の支払を行わず、Aからの 残代金500万円の支払請求に応じようともしなかった。 Bは、個人で卸売業を営み、毎年確定申告をしていたところ、令和4年12月1日時点において、 取引先である個人Cに対して同年10月20日に納入した商品に係る2000万円の売掛債権(支 払期限は令和5年1月20日。以下「本件債権」という。)を有していた。しかし、当該期限を過 ぎても支払はなされず、令和5年3月15日、Cが破産手続開始決定を受けたため、本件債権の回 収が滞り、Bは、その事業の資金繰りにも窮するようになった。令和5年12月15日にはCの破 産手続が終結し、本件債権の全額が回収不能であることが確定した。 Aは、令和5年3月末日の定年退職後、直ちに本件土地の売却代金を用いてQ社株式を取得し、 Q社の経営に参画していたが、次第に他の経営参画者との関係が悪化し、令和6年3月には、Q社 株式を取得価額と同額で他の株主に譲渡し、経営から手を引くことになった。このためAは、Bに 対して残代金500万円の請求を続けるよりも、本件土地を取り戻して家を建て、静かな老後を送 りたいと考えるようになり、令和6年4月10日、Bによる債務不履行を理由として本件売買契約 を解除する意思をBに通知するとともに、本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続に応じるよう に求めた。Bが速やかに登記手続に応じ、本件土地をAに引き渡したため、Aは、令和6年4月2 0日、受領済みの本件土地の代金3000万円から、違約金として300万円を控除した残額27 00万円をBに返還した。なお、Aが本件土地を取り戻した令和6年4月時点での本件土地の時価 は4100万円であった。 以上の事案について、以下の設問に答えなさい。解答に当たっては、理由を付し、根拠条文があ る場合はそれを明記しなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、事案中の年 月日にかかわらず、令和6年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさい。 〔設 問〕 1 Aが令和5年分の所得税について期限内申告をする場合において、本件売買契約に係る譲渡 所得の金額の計算はどのように行われるか、手付金の扱いを含めて論じなさい。なお、Aは令 和5年中、他の資産の譲渡を行っておらず、Aが負担した本件土地の譲渡に要した費用は10 0万円である。 2 Aは、設問1における申告と同時に所得税の納付を完了した。本件売買契約の解除と原状回 復は、Aの令和5年分の譲渡所得の金額の計算にどのように影響するか。またその結果、納付 した税額が過大になっていると考えたAは、どのような手続をとることができるか。 3 本件売買契約の解除に伴い、AがBから得た違約金300万円は、所得税法上、Aのいつの 年分のいかなる所得に分類されるか。 4 Bは、本件債権額2000万円を、令和4年分の事業所得の収入金額に含めて期限内申告を した。令和5年12月15日に本件債権の全額回収不能が確定したという事実は、Bのいつの 年分の所得金額の計算にどのように影響するか。