令和6年 司法試験 論文式試験 公法系科目 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:100) 我が国におけるペット、取り分け、犬又は猫(以下「犬猫」という。)の関連総市場規模は拡大 傾向にあり、ペットの種類が多様化する中、犬猫の飼養頭数割合は相対的に高いままで推移してい る。他方で、販売業者が、売れ残った犬猫を遺棄したり、安易に買取業者に引き渡し、結果として、 犬猫が殺され山野に大量廃棄されたりしたことが大きな社会問題となった。また、飼い主が、十分 な準備と覚悟のないまま犬猫を安易に購入した後、想定以上の手間、引っ越し、犬猫への興味の喪 失等を理由に犬猫を遺棄することも大きな社会問題となった。さらに、各地方公共団体は、飼い主 不明や飼養不可能になった犬猫を引き取り、一定期間経過後に殺処分としているが、それについて も命を軽視しているとの批判が大きくなった。 20**年、A省では、犬猫の殺処分を禁止し、現在行われている民間団体での無償譲渡活動と 地方公共団体での犬猫の引取りを統合した無償譲渡の仕組みを全国的に整えることが検討されてい る。具体的には、飼い主が飼養できなくなった犬猫を保護する「犬猫シェルター」を制度化すると いうものである。これにより、保護された犬猫は飼養を希望する者に無償譲渡され、譲渡先の見つ からなかった犬猫は、犬猫シェルターで終生飼養されることとなる。犬猫シェルターの設置・運営 は民間団体が行い、各地方公共団体は必要な経費の一部を公費で助成する。もっとも、犬猫シェル ターが制度化され、殺処分がなくなると、飼養できなくなった犬猫を手放す飼い主の心理的ハード ルが下がる結果、犬猫シェルターに持ち込まれる犬猫の頭数が収容能力を大幅に超えることが懸念 されている。 このような背景から、飼い主や販売業者による犬猫の遺棄や、犬猫シェルターへの持込みの増加 という問題への対応は、飼い主個人の意識改革だけでは限界があり、犬猫の販売については、販売 業者を各地方公共団体に登録させる現行制度を改めるなど、規制全体を見直す必要があるとの声が 国会議員の間で上がった。そこで、A省による犬猫シェルターの制度の検討と並行して、超党派の 国会議員は、「犬猫の販売業の適正化等に関する法律(仮称)」(以下「本件法案」という。)の 制定を目指す議員連盟(以下「議連」という。)を発足させた。 【別添資料】は、議連で検討されている本件法案の骨子である。特に問題になっているのは、本 件法案骨子の第2と第4に挙げられた免許制の導入及び広告規制の実施であり、その内容は、次の とおりである。 規制1 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事か ら犬猫の販売業を営む免許(以下「犬猫販売業免許」という。)を受けなければならない。 犬猫販売業免許の申請に対して、都道府県知事は、販売場ごとに犬猫飼養施設(犬猫の飼 養及び保管のための施設をいう。)に関する要件が満たされているかどうかを審査する。 加えて、都道府県知事は、当該都道府県内の需給均衡及び犬猫シェルター収容能力を考慮 し、犬猫販売業免許の交付の許否を判断する。 規制2 犬猫販売業免許を受けた者(以下「犬猫販売業者」という。)は、犬猫の販売に関して広 告するときは、犬猫のイラスト、写真及び動画を用いてはならない。 議連の担当者Xは、本件法案について、法律家甲に相談した。その際の甲とXとのやり取りは、 以下のとおりであった。 甲:本件法案は有償での犬猫の販売業についての規制ということですが、規制1及び規制2が必要 と判断された背景には、犬猫が飼い主や販売業者によって遺棄されている現状や、犬猫シェルタ ーへ持込みが増加する懸念があったということですね。 X:はい。本件法案は、犬猫の適正な取扱いのための犬猫飼養施設に対する規制にとどまらず、更 に一歩踏み込んでいます。本件法案は、甲さんの挙げたそれらの問題が、供給過剰による売れ残 りや、売れ残りを減らそうとする無理な販売により生じているという認識に基づいています。そ こで、犬猫の販売業を免許制にして、犬猫の供給が過剰にならないように、犬猫の需給均衡の観 点から免許発行数を限定することが必要だと判断しました。また、犬猫シェルターの収容能力に 応じて、免許発行数を調整することも必要だと判断しました。それに加えて、購買意欲を著しく 刺激し安易な購入につながるので、広告規制も必要だとの結論になりました。 甲:ということは、本件法案の目的は、犬猫の販売業の経営安定でも、犬猫由来の感染症等による 健康被害の防止でもないのですね。 X:はい。そのいずれでもありません。本件法案は、ペット全体についての動物取扱業や飼い主等 に関する規制等を定めた「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下「動物愛護管理法」とい う。)の特別法です。動物愛護管理法の目的は「人と動物の共生する社会の実現」であり、本件 法案も、その目的を共有しています。 甲:規制1で満たさなければならない要件のうち、まず、犬猫飼養施設に関する要件は、どのよう なものですか。 X:犬猫の販売業を営もうとする者は、犬猫販売業免許の申請の前提として、販売場ごとに、犬猫 の販売頭数に応じた犬猫飼養施設を設けることが必要です。各犬猫飼養施設につき、犬猫の体長 ・体高に合わせたケージ(檻)や運動スペースについての基準及び照明・温度設定についての基 準がそれぞれ満たされる必要があります。飼養施設に関する基準は動物愛護管理法上の販売業者 の登録制においても存在しますが、諸外国の制度や専門家の意見を踏まえて、現行の基準より厳 しくなっています。 甲:ということは、それは国際的に認められている基準の範囲内ということですね。 X:はい、そのように考えています。 甲:さらに、犬猫販売業免許の交付に当たっては犬猫の需給均衡も要件とするのですね。 X:はい。需給均衡の要件については、都道府県ごとの人口に対する犬猫の飼育頭数の割合や犬猫 の取引量等を考慮して各都道府県が基準を定める予定です。 甲:需給均衡の要件に対しては、規制すべきなのは、売れ残ること自体ではなく、売れ残った犬猫 を適切に扱わないことであるという意見もあると思いますが、いかがですか。 X:確かに、そうかもしれません。ですが、日本では生後2、3か月の子犬や子猫の人気が高く、 体の大きさがほぼ成体と同じになる生後6か月を過ぎると値引きしても売れなくなるといわれて います。したがって、犬猫の供給が過剰になり、売れ残りが出ること自体を抑制すべきと判断し ました。 甲:さらに、都道府県知事は、犬猫シェルターの収容能力も犬猫販売業免許の交付に際して考慮す るとのことですが、犬猫シェルターは、これまでの地方公共団体による犬猫の引取りと同様に、 犬猫販売業者からの引取りを拒否できると規定する予定なのですよね。犬猫販売業者は、売れ残 った犬猫については終生飼養するか、自己に代わりそれを行う者を、責任を持って探すことにな りますね。そうすると、飼い主による持込みの増加が仮に起こるとしても、それは、直接は犬猫 販売業者のせいではないという意見もあると思います。この点はいかがですか。 X:確かにそうかもしれません。しかし、問題はそれだけでは解決しません。売れ残りを減らそう とする犬猫販売業者による無理な販売も、飼い主による犬猫シェルター持込み増加の要因となる と認識しています。また、犬猫シェルターを適正に運営するために、犬猫シェルターで収容する 頭数が、地方公共団体や民間団体で現在引き取っている頭数を超えないようにするための方策を 検討してほしいとの要望が多くの都道府県から寄せられています。そのため、犬猫シェルターの 収容能力も免許交付の基準として考慮することにしました。 甲:犬猫販売業免許の発行数を限定するとなると、新規参入者だけではなく、既に犬猫を販売して いるペットショップにも関係しますね。 X:はい。ですが、規制の対象は犬猫に限られていますので、それ以外の動物、例えばうさぎや鳥、 観賞魚等を販売して営業を続けることは可能です。統計資料によれば、ペットとして動物を飼養 している者のうち、犬を飼っているのは31パーセント、猫については29パーセントですから、 やはり犬や猫の割合は多いといえます。ただし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う人も増加傾 向にあり、現在その割合が50パーセント近くになっています。犬猫販売業免許を取得できなか ったとしても、ペットショップとしての営業の継続は可能だと議連では考えています。 甲:規制2の内容はどのようなものですか。 X:犬猫の販売に関しては、犬猫のイラストや写真、動画を用いての広告を行うことができません。 愛らしい犬猫の姿態を広告に用いることが安易な購入につながっているとの認識から、広告規制 が必要であると判断しました。近年ではインターネット広告が増加していますので、ウェブサイ トやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)にそれらを掲載することも当然禁止されま す。 甲:動画等の情報は、直ちに問題のある情報とはいえないので、これらを規制することは不要では ないかという意見もあると思いますが、いかがですか。 X:確かに、そうかもしれません。しかし、広告に際して、犬猫販売業者は、品種、月齢、性別、 毛色、出生地等の情報は文字情報として用いることが可能です。品種等の文字情報に比べて、イ ラストや写真、動画は、視覚に訴える情報であり、購買意欲を著しく刺激し、十分な準備と覚悟 がないままの購入につながるので、やはり規制が必要だと判断しました。また、犬猫販売業者は、 実際に販売する段階では、購入希望者に対面で適正な飼養に関する情報提供を行い、かつ現物を 確認させることが、動物愛護管理法と同様に、義務付けられています。 甲:分かりました。憲法上の問題点については検討しましたか。 X:規制1及び規制2の憲法適合性の検討はこれからですので、この点について甲さんに判例を踏 まえたご検討をお願いしたいと考えております。 〔設問〕 あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして、規制1及び規制2の憲法適合性について論じ なさい。なお、その際には、必要に応じて、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及す ること。既存業者の損失補償については、論じる必要がない。 【別添資料】 犬猫の販売業の適正化等に関する法律(仮称)の骨子 第1 目的 この法律は、犬猫の販売業について、虐待及び遺棄の防止、犬猫の適正な取扱いその他犬猫の健 康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来する とともに、生命尊重、友愛及び平和の情操を涵養し、もって人と動物の共生する社会の実現を図る ことを目的とする。 第2 犬猫販売業免許 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事から犬猫 販売業免許を受けなければならない。次の各号のいずれかに該当するときは、都道府県知事は、犬 猫販売業免許を与えないことができる。 1 販売場ごとに設けられた犬猫飼養施設の状況により、犬猫販売業免許を与えることが適当でな いと認められるとき。 2 当該都道府県内の犬猫の需給均衡の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認 められるとき。 3 当該都道府県内の犬猫シェルター収容能力の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当で ないと認められるとき。 第3 販売に際しての情報提供 犬猫販売業者は、犬猫を販売する場合には、あらかじめ、当該犬猫を購入しようとする者に対し、 販売場において、対面により適正な飼養のために必要な情報を提供するとともに、当該犬猫の現在 の状態を直接見せなければならない。 第4 広告の規制 犬猫販売業者は、犬猫の販売に関して広告するときは、犬猫のイラスト、写真及び動画を用いて はならない。 (参照条文)動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号) (目的) 第1条 この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の 保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友 愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、 身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社 会の実現を図ることを目的とする。