令和6年 司法試験 論文式試験 労働法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。 【事 例】 1 Xは、平成5年4月に投資信託運用会社であるY社に入社し、平成21年以降は投資業務推進 部においてスタッフ職として勤務していた。Y社にはライン職とスタッフ職の職種があり、スタ ッフ職は、高度の専門知識、職務知識に基づき、専門的な職務を担うものの、部下を持たない。 Xの主たる業務は、月次レポートの精査や臨時レポートの作成等であった。月次レポートや臨 時レポートは、Y社の運営するファンドの情報を顧客である投資家に提供するもので、これらの 情報は顧客の投資判断の基となり、当該レポートの精査等は、Y社の収益の大半を占める投資家 からの手数料にも影響し得る、相当程度難易度の高い重要な業務であった。Xは、毎週木曜に開 催される管理者ミーティングへの出席を求められず、Y社の営業方針の決定や予算の策定、企業 組織や人事制度の構築・改編、労働条件の決定等に関与することはなかった。 スタッフ職の所定労働時間は午前8時30分から午後5時30分(休憩1時間)である。Xは、 月次レポートの精査等の業務がある期間(1か月に8日程度)は基本的に当該業務のために少な くとも所定労働時間内はY社内で就業し、午後7時30分過ぎまで業務を行う日がほとんどであ った。他方で、それ以外の期間は比較的自由に就業でき、遅刻や早退をしても賃金から控除され なかった。 Xの令和5年の年収(毎月支払われる給与と年2回の賞与の合計)は1200万円を超え、こ れはY社の上位6%に位置した。年収ベースでは、Y社のライン管理職部長に次ぐ待遇で、ライ ン管理職副部長の平均を上回っていた。なお、Y社は、Xを含む上位スタッフ職とライン管理職 を管理監督者として扱い、深夜の割増賃金を除き、時間外手当を支給していない。 2 Xは、かねてから定年より前に地元に戻り、自営業をしながら地元に貢献したいと考えていた ところ、令和6年3月に、Y社を退職することを決意し、同年7月31日をもって退職する意向 をY社に伝え、Y社は承認した。 Xが同年5月上旬にY社の人事部に確認したところ、令和6年7月分の賞与として同年7月1 0日に約150万円が、退職金として退職した日以降に約1400万円が、それぞれXに支払わ れる見込みであるとの連絡を受けた。Xは、開業資金と当面の生活費が十分賄えると考えていた。 3 Xは、令和6年5月中旬、酒を飲んだ状態で車を運転し、赤信号で交差点に進入して、車2台 を巻き込む交通事故を起こした。これにより、巻き込まれた車を運転していた2名の者は打撲等 の軽傷を負った。Xは、その場で逮捕され、新聞やインターネット上のニュースなどで実名報道 された。 Y社は、Xが飲酒運転により人身事故を起こし、実名報道されたことは重大な非違行為である とし、Y社就業規則(なお、同規則はY社従業員に周知されていた。)に基づき、所定の手続に のっとり、同月31日に、同年6月末日をもってXを懲戒解雇すること及び退職金を支給しない ことを決定し、Xにその旨を通知した。Xは同日をもって解雇されたため、Xに令和6年7月分 の賞与は支給されなかった。 Xは、飲酒運転により人身事故を起こしたことの非を認め、懲戒解雇されたことには承服して いるが、退職金の全額や賞与が支給されないことに疑問を感じ、弁護士に相談した。 【Y社就業規則(抜粋)】 第50条 賞与は、原則として、下記の支給日に在籍し、かつ、評価対象期間に勤務していた従業員 に対して、会社の業績等を勘案して支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得な い事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。 支給日 評価対象期間 7月10日 前年10月1日から当年3月31日まで 12月20日 当年4月1日から当年9月30日まで 2 前項の賞与の額は、会社の業績及び従業員の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。 第54条 従業員が退職し又は解雇されたときは、退職金を支給する。ただし、本規則の定めにより 懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。 第55条 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下記の支給率 を乗じた金額とする。 勤続年数 支給率 5年未満 1.0 5年以上11年未満 3.0 11年以上16年未満 5.0 16年以上21年未満 7.0 21年以上26年未満 10.0 26年以上31年未満 15.0 31年以上 20.0 第56条 退職金は、支給事由の生じた日から1か月以内に、退職した従業員(死亡による退職の場 合はその遺族)に対して支払う。 〔設 問〕 1 Xは、弁護士から法定時間外労働についての割増賃金をY社に請求できるのではないかとのア ドバイスを受け、当該賃金をY社に請求したいと考えている。当該請求は認められるか。考えら れる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。 2 Xは、令和6年7月分の賞与をY社に請求したいと考えている。当該請求は認められるか。考 えられる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。 3 Xは、懲戒解雇されなければ支払われたであろう退職金の全額をY社に請求したいと考えてい る。当該請求は認められるか。考えられる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。