令和6年 司法試験 論文式試験 知的財産法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) Xは、合金の高強度を維持しつつ、曲げても割れにくいという曲げ加工性を向上させるとの課題 を解決する合金の発明(以下「本件発明」という。)について特許権(以下「本件特許権」といい、 本件特許権についての特許を「本件特許」という。)を有している。 以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したもの であり、相互に関係はないものとする。 [設問1] 本件発明に係る特許出願(以下「本件出願」という。)から本件特許権の設定登録に至る経緯 は、次のとおりである。 本件出願の願書に添付された特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)には、 「物質A及び物質Bからなる合金」と記載されていた。また、本件出願の願書に添付された明細 書(以下「本件明細書」という。)における発明の詳細な説明には、強度及び曲げ加工性に優れ た実施例として「物質A及び物質b1からなる合金α」のみが記載されるとともに、物質b1に 代えて物質b2を用いた「物質A及び物質b2からなる合金β」は曲げ加工性が低下するため、 本件発明を実施する際に、物質b2など物質b1以外の物質Bを使用することは不適当であると 記載されていた。なお、物質b1及び物質b2は、物質Bの下位概念である。 本件出願を審査した特許審査官は、本件出願の6か月前に公表された論文に「物質A及び物質 b2からなる合金β」についての記載があったため、新規性喪失の拒絶理由を通知した。これに 対して、Xは、本件明細書の記載に照らせば、本件特許請求の範囲に記載された物質Bは物質b 1を意味するものとして解釈すべきである旨の意見書を提出したところ、本件特許請求の範囲は 補正されることなく特許査定がされ、本件特許権が設定登録された。 Y1は、「物質A及び物質b2からなる合金β」を製造販売している(以下、Y1の製造販売 に係るこの合金βを「Y1製品」という。)。 Xは、Y1に対して特許権侵害訴訟を提起し、Y1製品の製造販売の停止を請求した。 (1) Xは、Y1製品が本件発明の技術的範囲に属すると主張している。Xの主張の当否につい て論じなさい。なお、均等侵害について論じる必要はない。 (2) Y1は、本件特許に関して特許法第104条の3第1項の抗弁を提出した。この抗弁を提 出するに当たり、Y1は、具体的にどのような主張をすることが考えられるか。その妥当性 についても論じなさい。なお、訂正について論じる必要はない。 (3) Xが本件出願の9か月前に発表した論文に「物質A及び物質Bからなる合金」についての 記載があった。この場合、前記(2)におけるY1の主張の妥当性について差異が生じることが あるかについて、考えられるXの主張及び本件出願時の手続を踏まえて論じなさい。 [設問2] Xは、Y2に本件特許権について通常実施権を許諾する旨の契約(以下「本件契約」とい う。)をY2と締結した。本件契約においては、Y2が本件発明の技術的範囲に属する合金(以 下「Y2製品」という。)を製造販売することができる上限の最高数量が10万トンと定められ ている。Y2は、10万トンのY2製品を製造し、その全てを販売したが、その後、Y3から新 たな注文を受けたため、更に2万トンのY2製品を製造し、Y3に譲渡した。Y3は、譲り受け たY2製品を販売している。なお、Y3は、Y2製品の譲渡を受けた時点において、Y2がXか ら通常実施権の許諾を受けたことを知っていたが、本件契約における最高数量の定めについては 知らなかった。また、10万トンの範囲内でY2が製造したY2製品とY2が追加的に製造した 2万トンのY2製品を区別することは困難である。 Xは、Y3に対してY2製品の販売の停止を請求することができるかについて、考えられるY 3の反論を踏まえて論じなさい。なお、本件契約は解除されていない。また、私的独占の禁止及 び公正取引の確保に関する法律上の問題について論じる必要はない。