令和6年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第2問
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〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は、60:40〕) 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、建築設備機器の製造及び販売等を目的とする会社法 上の公開会社である取締役会設置会社であり、種類株式発行会社ではない。甲社の発行済株式の 総数は500万株であり、株主数は1000名であった。甲社には、A、B及びC(以下、A、 B及びCを総称して「Aら」という。)の3名の取締役並びにDほか2名の計3名の監査役がお り、Aが代表取締役を務めていた。なお、甲社の取締役であるAらは甲社の株式を保有していた が、甲社の監査役であるDほか2名は甲社の株式を保有していなかった。 乙株式会社(以下「乙社」という。)は、住宅の建設及び売買等を目的とする株式会社であり、 甲社の発行済株式の総数の20%に相当する100万株を保有する甲社の筆頭株主であった。 2.甲社の近年の業績が悪化していたことから、乙社は、令和3年7月20日、甲社に対し、1取 締役3名の解任の件、2監査役3名の解任の件、3取締役3名の選任の件、4監査役3名の選任 の件(以下、これらを総称して「本件各議題」という。)を目的とする株主総会の招集を請求し た。しかし、甲社は、株主総会の招集通知を発しなかった。 3.そこで、乙社は、令和3年9月27日、裁判所の許可を得て、甲社の株主に対し、本件各議題 を目的とする臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会1」という。)を開催するため、必要事項 を記載した招集通知を発した。当該招集通知が入った封書には、議決権行使書面及び株主総会参 考書類のほか「議決権の行使のお願い」と題する書面(以下「本件書面」という。)が同封され ていた。本件書面には、「甲社の改革の実現に御協力をお願い申し上げます。株主総会参考書類 に記載した乙社提案の各議案のいずれにも賛成していただいた方には、後日、1000円相当の 商品券を郵送にて贈呈させていただきます。全ての議案について同封した議決権行使書面の 『賛』の欄に○印を付けて御返送ください。」との記載がされていた。なお、甲社においては、 過去の定時株主総会に際して、甲社又は甲社の役員若しくは株主が一定の内容の議決権の行使又 は議決権の行使自体を条件として商品券等を提供したことはなかった。 4.令和3年10月20日、本件臨時株主総会1が開催され、本件各議題についての乙社提案の各 議案は、いずれも出席した株主の議決権の約75%の賛成により可決した(以下「本件決議1」 という。)。本件臨時株主総会1においては、出席した株主の議決権の数は、例年の定時株主総 会よりも約30%増加し、行使された議決権のうち議案に賛成したものの割合も、例年の定時株 主総会において行使された議決権のうち甲社が提案した議案(いずれも可決された。)に賛成し たものの割合よりも高いものであった。なお、本件臨時株主総会1において、甲社の株主が返送 した議決権行使書面には、賛否の欄に記入をしていない白票は存在しなかった。 5.乙社は、令和3年11月15日、本件各議題についての乙社提案の各議案のいずれにも賛成し た甲社の株主全員に対し、一人当たり1000円相当の商品券を送付した。これらの商品券の取 得や送付に要した費用については、乙社が全て負担した。 〔設問1〕 下記の小問に答えなさい。 〔小問1〕 上記3の時点で、甲社の監査役Dは、本件臨時株主総会1の招集通知と本件書面を見て、本 件臨時株主総会1の開催には法令違反があり、監査役として何らかの対応をする必要があるの ではないかと考えた。Dほか2名の甲社の監査役3名が協議した結果、仮に本件臨時株主総会 1の開催に法令違反があったとしても、本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段 の有無が別途問題となることが判明したため、Dは、弁護士に相談することとした。Dの相談 を受けた弁護士は、Dが会社法に基づいて本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手 段の有無についてどのように回答すべきか、論じなさい。なお、本件臨時株主総会1の開催に 法令違反があるかどうかについては、論じなくてよい。 〔小問2〕 上記5の時点で、本件各議題についての乙社提案の各議案に反対した甲社の株主Eが、本件 決議1に至った経緯に不満を抱き、株主総会決議の取消しの訴えを提起した場合に、Eの立場 において考えられる主張及びその主張の当否について、論じなさい。 下記6以下においては、上記2から5までの事実は存在しないことを前提として、〔設問2〕に 答えなさい。 6.乙社は、甲社の業績が長期的に悪化していたため、Aらに対して不満を持っていた。これに対 し、Aらは、考え方が大きく異なる乙社が筆頭株主のままでは甲社の意思決定を円滑に行うこと ができないし、乙社のような株主が存在するのは甲社が会社法上の公開会社であるからであり、 今後は甲社を会社法上の公開会社でない株式会社にすべきであると考えていた。また、Aらは、 1000名もの株主が存在していることも機動的な意思決定の妨げになるものと考えていた。そ こで、Aらは、令和3年12月、甲社の再建を支援してくれる丙株式会社(以下「丙社」とい う。)とともに、株式の併合をするなどして甲社の買収を行うこととした。 その結果、令和3年12月の時点で、甲社の発行済株式の総数は600株(全て普通株式であ る。)となり、丙社が200株を、Aが200株を、Bが100株を、Cが100株を、それぞ れ保有することとなった。また、甲社の定款には、譲渡による甲社の株式の取得について株主総 会の承認を要する旨、株式取得者が甲社の株主である場合には甲社はその取得を承認したものと みなす旨が定められた。そして、甲社は、引き続き取締役会を置くこととし、その取締役は、A らに加えて、丙社から派遣されたFの4名となり、引き続きAが代表取締役を務めることとなっ た。また、甲社の監査役は、従前と同様、Dほか2名の計3名となった。なお、これらの手続は、 全て適法に行われた。 7.丙社は、建築関係の中小規模の株式会社数社について、その株式の全てを保有したり、甲社や 下記8の丁株式会社(以下「丁社」という。)のように、その株式の一部を少数株主として保有 したりしていた。丙社は、甲社に対し、Fを取締役として派遣したり、取引先を紹介したりする などしてその再建に協力した。 8.甲社は、その製造する機器の品質に定評があったことに加え、建築設備機器に対する需要の増 加、丙社の協力及びAらの努力により、急速に業績を回復することができ、令和5年6月にはそ の経営が安定してきた。丙社は、甲社の再建はめどがついたと考え、今度は、甲社の営業範囲と 隣接する地域で建築設備機器の製造及び販売等を行う丁社の再建に注力するようになった。その 一環として、Fは、Aらに対し、甲社の持つ技術やライセンスを丁社に提供するように求めるな どしたため、FとAらとの間に見解の相違が見られるようになった。 9.Aらは、令和5年10月、丙社の本社を訪れ、丙社の代表取締役であるGと面会した。Aらは、 Gに対して、「甲社の再建に水を差すようなことはしないでほしい。」と伝えたところ、Gは、 「甲社の再建のために協力したのだから、今度は甲社が協力する番ではないか。甲社は、その技 術とライセンスを丁社に提供し、実際の生産は丁社に任せる方向で業務提携をしてはどうか。」 などと提案し、両者の見解は一致しなかった。Gは、これを機に、甲社を丙社の完全子会社とし た上で将来的には丁社と合併させる方がうまくいくのではないかと考えるようになった。 10.Aは、令和5年11月1日、上記9の甲社を丙社の完全子会社にするというGの意向をFから 聞かされて驚がくし、B及びCと対応策を協議した。その結果、Aらで甲社の発行済株式の総数 の3分の2を保有していることから、甲社と競合関係にある丁社のために経営に介入されること を防ぎ、甲社の独立を維持するために、丙社を締め出すべきであるとの結論に達した。そして、 下記11の計画を実現するために、Bは、同月6日、Aに対し、甲社の株式100株を譲渡した。 Gが考えていた甲社を丙社の完全子会社にする案も、Aらが決定した甲社の独立を維持するた めに丙社を締め出すという案も、甲社の企業価値との関係では、客観的にいずれか一方が他方よ りも優れているとは言い難く、見解の分かれる問題であった。Bは、Aよりも前にGの案を聞い ており、当初はGの案もあながちおかしなものではないと考えていたが、Aが甲社の独立を維持 する必要があると強く主張し、Cもこれに賛同したことから、最終的にはAらの案を支持するこ とにした。 11.甲社の取締役会は、令和5年11月15日、適法な決議を経て、次の1から3までの事項を一 連のものとして行う計画(以下「本件計画」という。)を決定した。 1 甲社の株式について、300株を1株とする株式の併合(以下「本件株式併合」という。) を行うこととし、そのために臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会2」という。)を招集す る。なお、本件株式併合により1株に満たない端数となる株式については、甲社が、同月14 日に専門家から取得した株式価値算定書に基づいた価格で買い取ることとする。 2 本件株式併合の効力発生後遅滞なく、1株を200株に分割する株式の分割(以下「本件株 式分割」という。)を行う。 3 本件株式分割の効力発生後遅滞なく、B及びCに対する募集株式の第三者割当て(甲社が上 記1で買い取った甲社の株式であって本件株式分割後の200株の自己株式を処分するという ものである。)を行うこととし、そのために臨時株主総会を招集する。この募集株式の第三者 割当ては、Bに100株を、Cに100株を、それぞれ割り当てるものである。 これらを行うことにより、甲社の発行済株式の総数は400株となり、Aが200株を、Bが 100株を、Cが100株を、それぞれ保有することとなる。 Fは、甲社のような株式会社において特定の株主を狙い撃ちにして締め出すことは許されない と主張して本件計画に反対した。しかし、Aらが賛成したことにより本件計画が可決された。 12.甲社は、令和5年12月11日、適法な招集手続を経て、本件臨時株主総会2を開催した。本 件臨時株主総会2では、全ての株主が出席し、Aが上記8及び9の丙社による提案等を説明した 上で、甲社と競合関係にある丁社のために経営に介入されることを防ぎ、甲社の独立を維持する ために、丙社を締め出す必要があるとして、本件株式併合が必要な理由を説明した。なお、本件 株式併合により1株に満たない端数となる株式の買取価格は、公正な価格と認められるものであ った。 本件臨時株主総会2に出席したGは、「金額の問題ではなく、信義の問題だ。なぜ再建に協力 した我々だけを排除するのか。このようなものは到底容認できない。」と述べたところ、Aは、 「御社とは甲社の経営について深刻な見解の相違があるため、我々経営陣が退くのでなければ、 最終的には退出していただくほかない。」と回答した。本件株式併合に関する事項を定める件に ついては、丙社が反対したものの、他の株主全ての賛成により、甲社提案のとおり可決された (以下「本件決議2」という。)。 13.本件株式併合の効力は、本件決議2によって効力発生日として定められた日に発生した。なお、 本件株式併合に際して行うべき株主への通知及び本件株式併合に関する書面等の備置き等は、全 て適法に行われた。 〔設問2〕 上記13の時点で、丙社は、本件株式併合の効力を争うことを検討している。丙社が採ること ができる会社法上の手段に関し、丙社の立場において考えられる主張及びその主張の当否につい て、論じなさい。