令和5年 司法試験 論文式試験 労働法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。 【事 例】 Xは、平成15年4月、約500名の社員を擁するIT企業であるY社との間で、所定労働時間 を1日8時間、賃金(基本給)を月額30万円として、担当職種の限定なく、期間の定めのない労 働契約を締結し、その頃から、同社においてプログラマー兼システムエンジニアとして就労を始め、 平成30年4月には、本社システム開発課の課長補佐に昇進するとともに賃金(基本給)は月額5 0万円に昇給し、以後、主に同課の課長補佐が務めるものとされていたシステム開発のプロジェク トマネージャーとして就労していた。 ところが、Xは、令和元年9月頃、私傷病であるうつ病を発症した。Xは、発症後しばらくは、 有給休暇を取得して療養したものの、症状は改善せず、かかりつけのメンタルクリニックの主治医 Aからも、「少なくとも今後3か月間の自宅療養の必要がある。」旨の診断を受けた。そこで、X は、上司と相談の上、後記のY社の就業規則に定められた私傷病休職の制度を利用し、令和2年1 月1日から休職することとなった。 休職期間の満了日(令和3年6月30日)が迫る同月1日に至り、Xは、主治医Aに対し、復職 の希望を述べて診断書の作成を求めた。主治医Aは、Xの症状は、休職を開始した頃と比べれば改 善傾向にはあるものの、依然として投薬の種類・量が多く、そのため、Xについては「なお3か月 程度の療養の継続を要する。」と診断するとともに、復職については「不可能ではないが、複雑な 業務の遂行はいまだ困難と思われる。」と記載した診断書を作成し、Xに交付した。 この診断書及び復職申出書をXから受領したY社の復職判定委員会(Y社の就業規則第34条に 規定するものであり、同社の人事担当役員らにより組織される。)は、同月10日、Xに対し、Y 社の産業医Bと面談するよう指示し、産業医Bは、Xと面談の上、復職判定委員会に対して、「適 切な配慮がない限り、プロジェクトマネージャーとしての就労は困難と思料する。」との意見を述 べた。これを受け、復職判定委員会は、Xと面談を行ったが、その際、Xは、「今でも朝に起床す るのが億劫なときがあり、これまで外出もあまりしておらず、注意力が散漫になるときもないでは ないが、休職に入った令和2年1月当時に比べれば、症状は改善しており、エンジニアとして力を 尽くしたいので、復職させてほしい。」旨を述べた。 復職判定委員会は、主治医A作成の診断書、復職申出書の内容、産業医Bの意見、Xの面談の際 の発言などを考慮し、Xを本社システム開発課の課長補佐として復職させ、プロジェクトマネージ ャーとして就労させることは難しいと考えた。 【就業規則(抜粋)】 第31条 社員が次の各号のいずれかに該当するときは、会社は休職を命ずる。 第1号 社員が、業務災害又は通勤災害に起因するもの以外の傷病(以下「私傷病」という。)に より引き続き60日間欠勤し、なお就労することができないと会社が認めたとき。 (第2号以下は省略) 第32条 前条により休職を命ぜられた社員は、次条の休職の期間中は社員としての地位を失わない が、賃金は支給されないものとする。 第33条 第31条第1号の事由による休職の期間は、勤続年数に応じて次のとおりとする。ただし、 会社は、当該休職の期間が満了してもなお引き続き休養が必要と認めたときは、通算して2年を超 えない範囲内でこれを延長することができる。 第1号 勤続年数が1年未満の者 6か月 第2号 勤続年数が1年以上10年未満の者 1年 第3号 勤続年数が10年を超える者 1年6か月 第34条 第31条第1号の事由により休職を命ぜられた社員が復職をしようとするときは、会社に 対し、医師の診断書を添えて申出をするものとし、会社は、復職判定委員会の判定に基づき、当該 社員について復職が可能と認めたときは、当該社員に対し、10日以内に復職することを命ずるも のとする。 第35条 社員が第33条の休職の期間を満了しても復職することができないときは、会社を退職す る。 〔設 問〕 1 上記【事例】の経過を踏まえ、復職判定委員会は、Xに対し、原職である本社システム開発課 の課長補佐としての復職は難しい旨を伝えたが、Xは、「プロジェクトマネージャーとして期待 される役割を全うする自信はある。別の職務をあてがわれて課長補佐から降格させられ、それに より給与が減額されては困る。」と述べて原職での復職を強く希望し、それ以外の形での復職を 拒否した。復職判定委員会は、そのようなXの意思を踏まえ、復職可能とは認められないと判定 し、Y社は、令和3年6月20日、Xに対し、就業規則第34条の復職命令はしない旨を伝えた。 その後、同月30日をもって就業規則所定の休職期間が満了し、なお復職できないと認められた ことから、Y社は、就業規則第35条に基づき、Xは自然退職したものとした。 Xは、Y社が自分を原職で復職させず、自然退職したものとして取り扱ったことは不当であり、 同社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴訟を提起したいと考 えている。このXの請求の当否について、考えられる法律上の論点を挙げて検討し、あなたの見 解を述べなさい。 2 上記【事例】の経過を踏まえ、復職判定委員会は、Xに対し、直ちに原職である本社システム 開発課の課長補佐としての復職は難しい旨を伝えるとともに、「一旦正式な復職とせずに本社総 務課に出社して繁忙度が比較的低い同課の事務職の業務を行ってもらい、一定期間、同課でのフ ルタイムでの就労の状況を観察した上で、改めて正式に復職の可否を判断する。」という案を提 示したが、Xが「最初からフルタイムで就労を再開することには不安が残る。」と述べて難色を 示したことから、更に「当面の間、週3日の隔日勤務、勤務時間を午後1時から午後5時までの 4時間とし、就労状況を観察して徐々に業務量や勤務時間を増やしていく。」という案を提示し、 Xはこれを了承した。Y社は、これを踏まえ、就業規則第33条ただし書に基づき、Xの休職期 間を2か月間延長した上で、休職扱いのまま、Xに対し、令和3年7月1日から本社総務課の事 務職として就労するよう指示し、同課課長に対し、Xには簡易な業務から担当させるよう指示し た。Xは、同日からY社への出勤を再開した。 同課における業務は、定型的な事務が中心であり、システム開発課における業務よりも日々の 繁忙度は低かったが、Xは、2週間ほどで体調不良となり、同月中旬頃から欠勤を重ねるに至っ た。復職判定委員会は、このような状況に照らし、Xにつき復職可能とは認められないと判定し、 Y社は、同年8月20日、Xに対し、就業規則第34条の復職命令はしない旨を伝えた。その後、 同月31日をもって延長後の休職期間が満了し、なお復職できないと認められたことから、Y社 は、就業規則第35条に基づき、Xは自然退職したものとした。 Xは、復職がかなわなかったのは、本社総務課で就労を再開した際の労働条件が過重であった ためであって、復職させずに休職期間の満了をもって自然退職したものとして取り扱われたこと は不当であり、また、同年7月1日以降については、実際に同課で就労していたのであるから、 少なくとも当該就労分の賃金は支払われるべきであるとして、Y社に対して、労働契約上の権利 を有する地位にあることの確認及び同課で就労した期間に係る未払賃金の支払を求める訴訟を提 起したいと考えている。このXの請求の当否について、考えられる法律上の論点を挙げて検討し、 あなたの見解を述べなさい。