令和5年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第2問
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〔第2問〕(配点:50) α河は、ある大陸を流れる広い流域面積を有する河川で、同大陸の複数の国の領域を流れていた。 A国は、α河から分岐した支流のβ川を挟んでB国と隣り合っていた。また、同じくα河から分岐 した別の支流であるγ川が、別の隣国であるC国との国境線をまたいで複雑に蛇行していた。 A国では19世紀末から少しずつ工業化が進み、特にα河上流地域に位置するD国から多くの石 炭を輸入することで栄え始めた。β川は、そのための重要なルートであったが、他方、β川をめぐ ってA国とB国の双方が領有権を主張していた。AB両国は外交交渉を重ね、その結果、20世紀 初頭には、「β川の主権はB国に属する。他方、A国はβ川において、産業目的のため、永久の航 行利用権を有する。」との条項を有する協定(以下「P協定」という。)を締結した。 この大陸では、20世紀後半になって、E国などのごく僅かな国を除いて、地域のほぼ全ての国 である30数か国が加盟する一般的な地域国際組織Qが設立された。その設立条約によれば、Qは この地域と世界の「平和、安全及び進歩を達成すること」を目指して設立され、また、総会や理事 会、事務局などのほか、地域の安全保障や人権保障、社会的福利増進のための各種機関を備えてい た。Qはこの大陸の中心的な国際組織として、設立以来、その目的に照らした活動に積極的に取り 組み、各種分野において着実に実行を積み重ねていった。 21世紀に入り、A国は自国の国土開発計画を見直す中で、自国と関わりのある河川の有効利用 を考え始めた。 β川については、これまで石炭輸入のための輸送以外には利用されてこなかったが、β川は起伏 に富んだ風光明媚な地域を流れており、また、他の地域にはない多様な生物が生息していた。そこ で、A国は、有償で観光客を石炭輸送船に乗せる事業を国内事業者に許可し、あわせて、外国学術 機関と契約して、研究を目的とする河川の生物資源調査を許すようになった。さらに、ちょうどそ の頃、上流のD国とE国の間で軍事的緊張が生じたため、A国は、β川を利用して、同じ石炭輸送 船を用いてD国へ向けて対空砲や銃器・銃弾などの軍事兵器・物資の輸送も開始した。この種の軍 事協力をA国は以前からD国に対して無償で行ってきたが、今回の輸送もこの協力の一環であり、 緊張している地域の地理的位置から考えてβ川を利用することが戦略的に好ましいと考えられた。 これに対し、B国は、A国に認めたのは石炭輸送のみであり、A国の行為はP協定違反だと主張し た。 Qは、D国とE国の軍事的緊張が武力衝突に発展することを危惧して、Qの職員Xを含む国際監 視団をD国にあるE国と隣接する国境地帯に派遣し、状況を監視させていた。しかし、その最中に、 E国の軍隊がXをD国兵だと誤認して銃撃し死亡させた。Xの死亡を理由に、QはE国に損害賠償 を求めたが、E国はこれを拒否し、Q設立条約にはQが損害賠償を求める権能については規定がな いことを指摘しつつ、そもそも国際組織であるQにそのような権能はないと主張した。 他方、γ川についてもA国は新たな活用を検討し始めた。A国は、γ川流域に共同でダム4基か ら成る治水施設を構築する計画を立案し、C国に申し込んで、A国とC国がそれぞれ自国領域内に おいてγ川にダム2基ずつを建設することとする協定(以下「R協定」という。)を締結した。R 協定によれば、その締結から8年以内をめどに工事を完成させ、運用を開始するものとされた。A 国は即座に建設に取り掛かり、5年目には自国が建設することになっていたダムの建設を完了させ た。他方、C国はR協定を締結した直後から経済状況が苦しくなり、ダム建設は遅滞していった。 さらに、C国国内で環境保護団体が、γ川流域には多様な生物が生息していることに着目してダム 建設はこの付近の生態系を壊すとの主張を行うようになった。C国国内ではダム建設に反対する声 が高まり、ついにはこれに支持された政党が政権を取るに至り、ダム建設作業は完全に停止した。 A国はC国に対して、ダム建設を継続するように申し入れたが、新政権下のC国は聞き入れず、そ れどころかC国国内のγ川流域を自然保護区とする国内法を制定した。この国内法によれば、自然 保護区にダムや発電所などの一定以上の規模の建設物を設置できないとされる。A国は、4基のダ ムが一体として機能することで初めてR協定締結時に予定していた効果が発揮できることから、自 国がこれまで投じた建設費用の相当部分が無駄になったと抗議し、C国に損害賠償を求めた。他方、 C国は、γ川流域を自然保護区とする国内法によってR協定を守ることはできなくなったとして不 遵守を正当化し、かつ、R協定の無効を主張し、さらに、経済的苦境や環境保護は喫緊の問題なの であって、これは緊急避難に当たり、損害賠償を支払う義務はないとも主張した。 なお、A国~E国は、いずれも条約法に関するウィーン条約の当事国である。また、A国~D国 は、国際組織Qの加盟国である。 以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.A国がP協定に違反しているとのB国の主張に対して、国際法上どのように評価できるかに ついて論じなさい。 2.国際組織Qは、自らに生じた損害の賠償を請求するために、E国に対してどのように主張で きるかについて論じなさい。 3.R協定に関するC国の主張は国際法上認められるかについて論じなさい。 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]