令和5年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
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〔第1問〕(配点:50) P大陸東部地域において南北に隣接するA国及びB国は、いずれもその東側においてQ海に面し ている。両国間にはα山脈が東西に走っており、その分水嶺が両国の陸の国境線とされていて、北 側のA国と南側のB国を分けつつ、東端はQ海にやや突き出たβ岬まで続いている。A国もB国も α山脈の分水嶺が陸地境界線となること及びβ岬が陸地境界線の東の終点であることは争っていな いが、海洋に関する境界線については合意がなされていなかった。北側のA国は、β岬から子午線 に沿うように北へほぼまっすぐに伸びる低潮線を通常基線として定め、国内法により当該基線から 12海里までの海域を領海とし、通常基線から200海里までの海域に排他的経済水域(以下「E EZ」という。)を、その下の海底部分に大陸棚を設定した。これに対して、南側のB国の海岸線 はβ岬からやや緩やかに南西方向に伸びており、β岬より南側には、海岸に沿って沖合約5海里の ところに一連の島と低潮高地が存在している。B国は国内法により、基線の一部についてこれらの 島と低潮高地をつないで直線基線とするとともに、当該基線から12海里までの海域に領海を、2 00海里までの海域とその下の海底部分にそれぞれEEZと大陸棚を設定した。 AB両国は、海洋境界線の設定に関して何度かの交渉を経てそれぞれの基線を確認した上で、領 海については等距離線で境界画定することに合意したが、EEZ及び大陸棚については単一の境界 画定線とすることに合意したものの、その境界画定線をどこに引くかに関しては合意に至らなかっ た。AB両国間での主たる意見の相違は、β岬が位置する緯度よりも約6海里北側でA国沖約30 海里のところにあるγ島(面積約0.5平方キロメートル)の取扱いと、海洋境界画定に関連する AB両国それぞれの関連海岸線の長さについてであった。AB両国ともγ島がB国領であることを 認めていたものの、A国は、γ島が無人島であることから海洋境界画定についてはその存在を無視 することを主張したのに対し、B国はこれを関連事情として考慮すべきであると反論した。また、 海洋境界画定に関するA国とB国の関連海岸線について、A国の主張によれば、その長さはA国が 約400キロメートル、B国は約410キロメートルで、長さの比は約1:1となり、A国が主張 する境界画定線で分けられる海域の面積も約1:1となる。これに対して、B国の主張によれば、 関連海岸線の長さはA国が約400キロメートル、B国は約620キロメートルで、約1:1.5 であり、γ島を関連事情として考慮した境界画定線で分けられる海域の面積は約1:1.7になる という。 その後、B国が、γ島に埋立て用の作業船とこれを護衛する軍艦を派遣し、γ島の周辺を埋め立 てて島を大きくする作業を開始しようとしたため、A国もまた、γ島の周辺海域に軍艦を派遣して B国の作業船による埋立作業を中止させるために威嚇発砲を行ったところ、B国の軍艦もこれに応 戦したため、AB両国軍艦の間で武力衝突が発生した。A国は、B国との武力衝突が生じている最 中に、AB両国間におけるEEZと大陸棚の境界画定に関する問題を、国際司法裁判所(以下「I CJ」という。)に一方的に付託して海洋境界線の画定を求めたほか、B国に対して埋立作業と軍 事活動を停止してγ島の周辺海域からB国の船舶を撤収させ、紛争を悪化・拡大するような措置を 控えることを指示する仮保全措置も併せてICJに要請した。 A国が海洋境界画定問題をICJに付託した後、C国の軍艦X号がB国の主張する領海に入域し て、更にB国が設定した直線基線の内側に入り、この直線基線とB国の低潮線との間の海域を迅速 かつ継続的に通航しているところをB国の沿岸警備隊が発見するという出来事が生じた。B国の沿 岸警備隊は、X号を発見した海域からB国の設定した領海外まで直ちに出るようX号に通知したと ころ、X号は、これを無視してB国の直線基線と低潮線との間の海域をしばらく航行した後、B国 の主張する領海内を航行してようやくB国の領海の外に出た。B国は、国内法令で自国領海内での 外国軍艦の通航について事前の許可申請や事前の通告を求めてはいなかったが、直線基線の内側は 内水であって外国軍艦の通航は許容されないと主張して、この事件の後、X号の通航がB国の主権 を侵害する行為であるとしてC国に対して抗議を行った。 A国、B国及びC国はいずれも国際連合(以下「国連」という。)の原加盟国であり、上記の出 来事が生じた時点では既に1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」と いう。)の当事国でもあった。またAB両国は、国連加盟時に国際司法裁判所規程第36条第2項 に基づきICJの管轄権を受諾する宣言を留保なしで行っている。 以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.A国がICJに要請した仮保全措置に関して、近時のICJの判例を参考にしつつ、指示が 命じられるための要件を確認した上で、A国は、自らが要請した仮保全措置がICJにより指 示されるためにいかなる主張が可能かについて論じなさい。 2.B国は、国連海洋法条約上、EEZと大陸棚の境界画定に関していかなる主張が可能かにつ いて、海洋境界画定に関する近時の国際判例を参考にしつつ論じなさい。 3.X号の通航がB国の主権を侵害する行為であるというB国の抗議に対して、C国は国際法上 いかなる反論が可能かについて論じなさい。