令和5年 司法試験 論文式試験 知的財産法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) Xは、医薬品の製造販売を業とする会社であり、化合物αを有効成分とする疾患βの予防剤(以 下「本件発明」という。)について特許権を有している(以下、登録された権利を「本件特許権」 といい、本件特許権についての特許を「本件特許」という。)。αには甲作用と乙作用の2種類の 作用があり、甲作用が発現すると、疾患βの治療効果が生じ、乙作用が発現すると、疾患βの予防 効果が生じる。α自体は公知の化合物であり、本件発明の特許出願前に、αを有効成分とする疾患 βの治療剤が製造、販売されていた。本件発明は、αに乙作用があることを発見し、疾患βの予防 剤に適用したことに特徴を有するものである。なお、αを治療剤として用いる場合と予防剤として 用いる場合では、製剤の標準的な用法・用量に違いがある。 以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したもの であり、相互に関係はないものとする。 [設問1] 本件発明は、Xの研究開発部の部長であるAが、部下であるBに対して、αを予防剤に適用す ることが可能か否かを検討するように指示し、Bが、Xの勤務時間中にXの施設を利用して実験 を行い、αを所定の用法・用量で使用した場合に乙作用が発現することを確認して完成させたも のである。本件発明完成時のXの職務発明規程には、職務発明について、その発明が完成した時 にXが特許を受ける権利を取得し、Xが特許権を取得した時に発明をした従業者に対して一括し て補償金を支払う旨が定められており、その内容は全従業員に周知されていた。Xは、前記職務 発明規程に基づいて、本件発明の特許を受ける権利を取得し、発明者をA、出願人をXとする特 許出願を行い、本件特許権を取得した。 (1) 本件発明に係る特許出願が特許庁に係属している間に、Bは、Xに対して、自らが本件発 明の発明者であると主張して、発明者名を訂正する補正手続を行うことを請求した。Bの請 求が認められるかについて論じなさい。 (2) Bは、Xを退社後、Xに対して、自らが本件発明の発明者であると主張し、本件発明に係 る相当の利益として、前記職務発明規程に基づいて算出される額の補償金の支払を請求した。 Bの請求が本件発明の完成時から7年、本件発明に係る特許出願時から6年、本件発明に係 る特許登録時から4年を経過した後に行われたとした場合、Bの請求が認められるかについ て論じなさい。なお、解答に当たっては、現行民法及び現行特許法の適用を前提とすること。 [設問2] Cは、医薬品の製造販売を業とする会社であるが、本件発明に係る特許出願前に、他の化合物 γが疾患βの治療剤と予防剤の両方に適用されていたことから、αを疾患βの予防剤に適用する ことは、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。) が容易に想到可能であると考え、本件特許について無効審判を請求したところ、特許庁が請求不 成立審決をしたため、Cは審決取消訴訟を提起した。知的財産高等裁判所は、Cの主張を認め、 αを疾患βの予防剤に適用することは当業者が容易に想到し得るとして審決を取り消す判決をし、 その判決が確定した。その後、特許庁は再度の審理をし、本件特許を無効にすべき旨の第二次審 決をしたため、Xは第二次審決取消訴訟を提起した。第二次審決取消訴訟において、Xは、仮に αを疾患βの予防剤に適用することを当業者が容易に想到し得るとしても、本件特許出願の願書 に添付した明細書記載の実験により証明されるαの予防効果は当業者の予測できない顕著なもの であるから、本件特許は無効ではないという主張を新たに行った。これに対して、Cは、αの予 防効果はγのそれと同程度のものであるから、αが予測できない顕著な効果を有するとはいえな いと主張した。 (1) 第二次審決取消訴訟において、Xが本件発明の効果に関する主張を新たに行うことは許さ れるかについて論じなさい。 (2) 第二次審決取消訴訟において本件発明の効果に関する主張をすることが許されるとして、 X及びCの主張の妥当性について論じなさい。 [設問3] Dは、医薬品の製造販売を業とする会社であり、αを有効成分とする製剤(以下「D製剤」と いう。)を製造、販売している。D製剤の添付文書には、治療剤として使用する場合の用法・用 量と予防剤として使用する場合の用法・用量が併記されている。Xは、本件特許権に基づき、D に対して、D製剤の販売の差止め及び廃棄を請求した。Xの請求が認められるかについて論じな さい。なお、解答に当たっては、本件特許が有効であることを前提とすること。