令和5年 司法試験 論文式試験 経済法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) 甲装置は、我が国において法令上求められている検査のための特有の機能を有する業務用検査装 置である。また、乙機器は、甲装置の中核となる機器であり、甲装置に組み込んで使用される。 甲装置には、大型の甲装置(以下「大型甲」という。)と小型の甲装置(以下「小型甲」という。) がある。大型甲と小型甲の市場規模(販売金額)は同程度であり、それぞれの需要は安定している。 大型甲と小型甲では、サイズ、処理能力等が異なり、また、大型甲と小型甲の製造設備を相互に転 換するためには、かなりの投資と時間を必要とする。 甲装置の主要なメーカーとして、X社、Y社及びZ社(以下「3社」という。)があり、それぞ れ複数の製造設備で甲装置を製造しているが、3社それぞれの製造能力にはかなりの余裕がある。 3社のほかに、小型甲のみを製造販売するW社がある。これらのメーカーは、全国の需要者に甲装 置を販売する体制を整えており、地域による価格差は存在しない。また、甲装置の輸出入は事実上 行われていない。甲装置の需要者は、比較的大規模な事業者であり、交渉力が強い。甲装置の製造 コストは、需要者向け販売価格の6割程度である。 甲装置全体では、Z社がシェア(販売金額に基づく割合をいう。以下同じ。)を漸増させてきて おり、その分、X社及びY社のシェアが漸減してきている。現在のシェアは、次表のとおりである。 甲装置全体 大型甲のみ 小型甲のみ X社 25% 40% 10% Y社 25% 20% 30% Z社 40% 40% 40% W社 10% ― 20% 合計 100% 100% 100% 大型甲については、3社が製造販売しており、うちX社とZ社が大きなシェアを有している。こ れに対し、Y社のシェアは、同程度の製造能力を有する二つの大型甲の製造設備のうち一つが老朽 化して高コストになっていることもあって減少傾向にあり、このままでは今後更にシェアを落とす ことになるとみられている。 他方、小型甲については、3社のほか、小型甲のみを製造販売するW社を加えた4社がしのぎを 削っている。X社は、小型甲については最低のシェアにとどまっている。 乙機器は、専ら甲装置に組み込まれるものであり、他に代わるものはなく、他に転用することも できない。また、大型甲向けと小型甲向けとで違いはない。 3社は、乙機器を自ら製造している。乙機器の製造コストは、甲装置全体の製造コストの5割程 度を占めている。乙機器の製造には特殊な技術が必要であり、甲装置のメーカー以外には乙機器の 製造技術を有するものはおらず、新規参入も困難であり、また、輸出入も事実上行われていない。 3社それぞれの乙機器の製造能力にはある程度の余裕がある。 他方、小型甲のみを製造するW社は、乙機器を製造する技術を有するものの、自らは製造せず、 3社に製造を委託している(必要数量のおおむね3分の1ずつ)。これは、甲装置のシェアが低い W社が乙機器を自ら製造する場合にはコスト面で不利であり、乙機器の製造余力がある3社から供 給を受けることが有利であると判断しているためである。W社が乙機器の製造設備を設置し稼働さ せるためには3年近い期間を必要とする。また、W社は、独自の技術を用いて、他社から調達した 乙機器を組み込んだ小型甲を製造しており、一部の需要者から支持を得ていることから、一定の競 争力があると評価されている。 〔設 問〕 こうした中で、X社及びY社では、次の二つの計画を立案しており、その一環として、私的独 占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点について も検討している。二つの計画について、独占禁止法上の問題点を分析して検討するとともに、問 題があると判断される場合には、当該問題を解消するために必要と考えられる措置を具体的に提 示しなさい。なお、二つの計画について、それぞれ独立して検討するものとする。 (1) 甲装置の製造コストは、その製造数量や製造設備の稼働率に左右されるところ、X社の小型 甲の製造設備やY社の二つの大型甲の製造設備のうちの一つの稼働率が低い状況にある。しか し、甲装置の需要者の中には、設置場所等により大型甲と小型甲の両方を必要とするものも少 なくなく、X社及びY社では、大型甲と小型甲の両方を販売することが営業上重要であると判 断している。 このため、X社とY社は、次の内容の甲装置の製造受委託(OEM)契約を締結することを 計画している。すなわち、X社にあっては、小型甲の製造を取りやめ、Y社に小型甲の製造の 全部を委託し、Y社から供給を受けた小型甲を自社の製品として需要者に販売する。逆に、Y 社にあっては、大型甲の製造を取りやめ、X社に大型甲の製造の全部を委託し、X社から供給 を受けた大型甲を自社の製品として需要者に販売する。甲装置の需要者向けの販売活動は、そ れぞれが独立して行う。 X社及びY社において、大型甲と小型甲の製造を担当する従業員を相互に配置転換すること は容易である。それぞれの現有製造設備から他方に必要数量を供給することは可能であるが、 特に大型甲についてはX社の製造余力は乏しくなる見込みである。また、大型甲及び小型甲の いずれについても、製造受託者から製造委託者に対する供給価格は、それぞれの需要者向け販 売価格の8割程度と見込まれる。 なお、これによりW社に対する乙機器の供給に影響が生じることはない。 (2) 乙機器の製造コストは、その製造数量や製造設備の稼働率に左右されるところ、甲装置のシ ェアが首位のZ社に比べて低いX社及びY社では、乙機器の製造コスト面で不利な状況にある。 このため、X社とY社は、それぞれの乙機器製造部門を共同新設分割方式で切り出し、乙機 器の製造を行う共同出資会社としてS社を設立することを計画している。なお、この共同新設 分割は、独占禁止法に基づく公正取引委員会への届出基準を充足している。 S社では、乙機器の製造設備を統廃合し(ただし、W社に対して引き続き乙機器を供給する 上で必要な製造能力を維持する。)、製造コストの低減を図る。X社及びY社は、S社から製 造コストベースで乙機器の供給を受ける。また、甲装置の製造や需要者向けの販売活動は、そ れぞれが独立して行う。