令和5年 司法試験 論文式試験 倒産法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 Aは、個人事業主として、P国の雑貨を現地で買い付けて日本に輸入し、賃借している商店街 の店舗で販売するという事業を行っていたが、多額の負債を抱えた上に売上げの不振で資金繰り に行き詰まってしまった。そこで、Aは、弁護士Bに依頼して、令和4年4月1日、破産手続開 始の申立てをしたところ、同月10日、Aについて破産手続開始の決定がされ、弁護士Xが破産 管財人に選任された。 〔設問1〕 Aは、破産手続開始の決定がされた時点で、現金90万円を保有している。また、Aが、仕入 先であるP国所在の販売店にAの所有物として預かってもらっている500万円相当の雑貨があ る(なお、売買代金は支払済みである。)。 Aについて破産手続開始の決定がされた直後の令和4年4月20日、Aの父親であるCが死亡 した。AはCの唯一の法定相続人であるところ、Cの遺産としてC名義の銀行口座に600万円 の預金が残されていた。また、Cは、10年以上前から生命保険に加入しており、その加入時に おいて死亡保険金の受取人をAと指定していたため、Cが死亡した場合にはその死亡保険金はA が受け取ることになっていた。この死亡保険金の額は1000万円である。 (1) 以下1から4までの各財産は、Aの破産手続において破産財団に属するか、説明しなさい。 1 P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨 2 現金90万円 3 Cの遺産である600万円の預金債権 4 Cの死亡による1000万円の保険金請求権 (参照条文)民事執行法施行令 (差押えが禁止される金銭の額) 第1条 民事執行法(以下「法」という。)第131条第3号(法第192条において準用す る場合を含む。)の政令で定める額は、66万円とする。 (2) Aは、破産手続開始の時において、自らを受取人とする貯蓄型の医療保険に加入しており、 その時点における解約返戻金の額は40万円であった。 破産管財人Xは、この解約返戻金が破産財団に帰属することを前提に、令和4年4月30日、 Aの申立代理人Bに対し、解約返戻金を破産財団に組み入れるために医療保険契約(以下「本 件保険契約」という。)を解約する予定であると通知をした。 しかしながら、Aは、すぐに新たな職に就くことが難しい上、持病があるため、本件保険契 約を解約されてしまうと代わりの医療保険に加入する必要があるところ、その場合には、保険 料が従前と比べてかなり高額になることが判明した。 Aの申立代理人Bとしては、本件保険契約を継続するためにどのような手段を採ることが考 えられるか。破産財団に関する破産債権者の利益を考慮しつつ、複数の手段を検討して論じな さい。 〔設問2〕 AとDは婚姻していたが、性格の不一致から長期間不仲が続いていたところ、Aの事業の行き 詰まりが最後の引き金となり、令和4年2月1日に協議離婚をするに至った。その協議の際、A は、Dとの間で、離婚に伴う財産分与として、AがDに対し、A名義の登記がある甲不動産(担 保権は設定されていない。)の所有権を譲渡するとともに、150万円の支払をする旨の合意を した。Aは、この合意に基づき、協議離婚が成立した時点で既に支払不能に陥っていたにもかか わらず、同年3月1日、Dに対して上記150万円を支払った(以下「本件支払」という。)。 また、Aは、甲不動産から退去して新たにアパートを賃借してそこで生活するようになり、現在、 甲不動産にはDのみが居住している。もっとも、Aについて破産手続開始の決定がされた時点で は、甲不動産に係るDへの所有権移転登記手続はされていない。 (1) Dは、甲不動産の所有権の移転は財産分与を通じて婚姻中に形成された夫婦の共有財産を清 算する性質のものであるため、Aの破産手続において、甲不動産の所有権の移転に係る登記請 求は当然に認められるはずだと主張している。この主張の当否について、Xからの反論を踏ま えて論じなさい。 (2) Xは、破産手続開始の決定前にされた本件支払に対して否認権を行使しようとしている。こ れに対し、Dは、協議離婚の成立時においてAが支払不能に陥っている事実を認識していたも のの、上記(1)と同様、本件支払は夫婦の共有財産を清算する性質のものであるため否認権は成 立しないと反論している。なお、甲不動産の譲渡と150万円の支払は、財産分与としては相 当なものであるとする。 このとき、Xの主張する否認権の成否について、Dからの反論を踏まえて論じなさい。