令和4年 司法試験 論文式試験 公法系科目 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:100) X県公立大学法人が運営する県立X大学では、かねてより、地域経済の振興に貢献する研究の推 進・人材の育成に力を入れており、その中核となる組織としてA研究所を設置している。A研究所 にはX大学の各学部の教員のうち、学部の推薦に基づき特に優れた研究業績があると認められた者 が研究員として所属している。A研究所は、「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」こと を目的に、研究員の申請に基づき、年100万円の研究助成金を交付する制度を設けている。研究 員はこれまで全員が毎年研究助成金を交付され、そうした手厚い支援の下でそれぞれの専門分野の 研究を行うとともに、その成果を踏まえた教育を各学部の教員として行ってきた。X県には有名企 業の製造拠点が複数あり、地域経済の原動力となってきたことから、X県はそれらの企業に積極的 な支援を行っており、A研究所においても、県の産業政策の根拠となる研究が進められてきた。 地域経済を研究しているX大学B学部教授Yは、A研究所に研究員として所属し、研究助成を受 けて研究・教育に当たってきた。Yは、持続可能な地域経済の在り方を研究する中で、X県の自然 環境をいかした農業や観光業などに力を入れていくことが必要であると考えるようになり、かかる 観点から学術論文を積極的に発表するようになった。丁寧な実地調査とデータ分析に基づき地域経 済の構造転換の必要性を主張するYの論文は、国内外の学界で高い評価を得た。 Yは、環境保護運動にも強く関与するようになり、地域で環境保護運動を進める団体Cを設立し て、自らその代表となった。団体Cは、X県の自然環境の保全を訴え、工業団地への企業誘致など X県が進めてきた産業政策を、環境を犠牲に産業振興を図っているなどとして批判する活動をも展 開していた。著名な研究者であるYによるこうした活動は、広く社会的な注目を集めた。Yはまた、 研究成果を発信するためにA研究所のサーバー上に開設している自身のウェブサイト「Y研究室」 において、団体Cの活動を記録した動画と、X県の産業政策に対する批判的なコメントを掲載した。 動画には、Yを含む団体Cの構成員が、X県の産業政策の推進に熱心な県議会議員Dらと県庁前で 激しく口論する様子や、Yが、環境保護に熱心に取り組む県議会議員らと団体Cの集会で対談する 様子などが含まれていた。 202*年、団体Cは、自己の資金を用いて、学生や一般市民を読者として想定した、X県にお ける環境保護の必要性を訴えるブックレット『持続可能な地域社会の未来に向けて―今こそ政策を 転換すべきとき』を刊行した(以下「ブックレット」という。)。ブックレットでは、編者である Yのほか、X県各地で活動する団体Cの構成員らもそれぞれ一章を担当し、それぞれの活動を紹介 するとともに、X県の産業政策を厳しく批判する論考を執筆していた。X県を中心に発行されてい る地方紙は、ブックレットについて、「持続可能な社会の在り方を考える上で貴重な学問的示唆を 含んでいる」との好意的な書評を掲載した。 Yは長年にわたり、B学部の必修科目である「地域経済論」の講義を担当し、地域経済の経済学 的分析を行ってきたが、202*年度前期の講義では、ブックレットを教科書として使用し、毎回 の講義にブックレットの共著者をゲストとして招いた。また、Yは、講義の中で、再三にわたり団 体Cへの加入を勧め、加入申込書の配布なども行った。さらに、期末試験では、ブックレットの章 の一つを選んで学術的観点から検討せよ、という出題を行った。 このようなYの活動に対して、公務員ではないとはいえ県立大学の教員としてふさわしくないと いった強い批判が学内の一部の教員からなされるようになった。X県議会でも、Dなど一部の議員 から、Yの活動を問題視する発言がなされた。さらに、202*年12月、X大学の経営の重要事 項を審議するX大学経営審議会において、地元経済界出身の委員から、特定の議員らと連携して県 の産業政策を批判する教員の活動に研究助成を行っているのは県立大学として問題ではないかとい う、明らかにYを念頭に置いたと思われる発言がなされた。これに対して、A研究所長である教授 Eは、特定の政策への批判は研究者としてあり得ることだが、県費を原資とする研究助成金が学外 での政治活動にも用いられているとすれば問題であるから、研究助成金が適正に用いられているか どうかについては精査したいと応答した。 経営審議会の後、Eを委員長とするA研究所の運営委員会が開催され、次年度の研究助成金の交 付について審議された。Yに対しては、過去数年にわたり研究助成金が助成の趣旨に適合しない形 で使用されており、次年度についてもYが提出した申請書では同様の支出が想定されるとの理由で、 運営委員会は助成金を交付しないことを決定した。不交付決定の通知を受けたYは、助成が認めら れなければ次年度の研究活動に重大な支障が生じる、自分が助成を得て行ってきた研究活動は全て 「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」という助成の趣旨に沿ったものである、A研究所 ではこれまで研究員に研究助成が認められなかった例はなく、優れた成果を上げてきた自分に対し てだけ助成が認められないのは到底納得できないなどと述べ、Eに対して詳しい説明を求めた。E は、経営審議会での指摘を受けて運営委員会がYについて過去数年の支出を精査したところ、その 結果、ウェブサイト「Y研究室」の運営の委託及び実地調査のための国内各地への出張に研究助成 金の3分の2以上が支出されているが、ウェブサイトは研究成果の発信のほかにYの政治的な意見 表明や団体Cの活動のためにも利用されていること、また出張に際しては、Yが、団体Cと連携し て活動している各地の団体に聞き取り調査を行うだけでなく、それらの団体が主催する学習会でX 県の産業政策を批判する講演を無報酬で行っていることが明らかになった、と述べた。そしてEは、 いずれもが助成対象となる研究活動とは認め難いものであったので、研究助成の趣旨に適合しない 同様の支出が想定される次年度については、助成金を交付しないこととした、と説明した。 また、Yが202*年度前期に担当した「地域経済論」の成績評価に対して、団体Cに加入した 学生がいずれも「S」の最高評価を得ている一方で、期末試験の答案でブックレットの内容を批判 した学生の多くが不合格の評価を受けている、この科目の単位を取得しなければ卒業できないのに このような評価では納得できないなど、成績評価が著しく不公正であるという異議の申立てが、同 科目を履修した学生からなされた。202*年の翌年の1月、B学部教授会は、学部長Fらによる Yに対する事情聴取や答案の調査の結果を踏まえ、異議申立てについての審査を行った。教授会で は、事情聴取に際し、Yが、「大学生は十分な批判能力を備えているので、高校までの授業とは異 なり大学では講義内容などについて教員に広い裁量が認められており、成績評価もその中に入るは ずだ。」、「ブックレットの論考はいずれも私の研究を踏まえた学問的な根拠に基づくものであっ て、それを十分な理由を示さず批判している答案は評価できない。」、「団体Cへの加入勧誘は何 ら強制を伴っておらず、社会問題に関心の高い学生が自発的に加入しただけである。そうした意識 の高い学生が、結果として優れた答案を書き高い評価を得たのは自然なことである。」、「大学が 実施した今年度の授業評価で6割以上の学生が私の講義について5段階評価で4以上の評価をして いることは大学も承知しているはずだ。」などと述べたことが報告された。続けてFからは、期末 試験の答案の調査により、ブックレットの内容を批判した答案の成績評価が全体として著しく低い ことが確認され、学術的観点からなされるべき大学の成績評価として著しく妥当性を欠くと判断さ れるとの説明があった。Fは、B学部教授会の議を経て、「地域経済論」の不合格者の成績評価を 取り消し、別の教員が不合格者を対象とした再試験を行い、それにより成績を評価することを決定 した。 Yは、研究助成金の不交付決定(以下「決定1」という。)及び「地域経済論」の不合格者の成 績評価を取り消し、他の教員による再試験・成績評価を実施するとの決定(以下「決定2」という。) のいずれにも納得できないとして、X大学長Gと面会した。面会には、A研究所長EとB学部長F も同席した。決定1及び決定2は政治的圧力による不当な決定であり、大学に撤回を求めるとする Yに対して、Gは、E・Fとともに、決定1及び決定2は大学としての決定である、大学の一員で ある以上、研究・教育の内容や方法について大学の自主的な決定に従うのは当然である、と述べた。 YはGの説明に納得せず、自分が依頼した弁護士も同席の上で、再度話合いの場を設けることを要 求すると告げた。 〔設問1〕 X大学長Gは、X県公立大学法人の顧問弁護士Zに対して、Yとの再度の話合いに応じるつも りだが、大学としては憲法を踏まえてできるだけ丁寧な説明を行いたい、と相談した。あなたが Zであるとして、X大学の立場から、決定1及び決定2それぞれについて、次回の面会において どのような憲法上の主張が可能かを述べなさい。 〔設問2〕 〔設問1〕で述べられた憲法上の主張に対するYからの反論を想定しつつ、あなた自身の見解 を述べなさい。 なお、〔設問1〕及び〔設問2〕とも、司法権の限界については、論じる必要がない。また必 要に応じて、参考とすべき判例に言及すること。