令和4年 司法試験 論文式試験 労働法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。 【事 例】 1 貨物自動車運送事業等を営むY社は、令和元年10月1日、それまでに他の運送事業者におい て約10年間勤務し、その間に運行管理業務等に従事した経験を有するX1を、それらの経験や 運行管理者の資格(注)を有する点を評価し、正社員として採用した。その際に締結された労働 契約には、期間の定めはなく、職種や業務を限定する定めもなかった。採用決定時、Y社はX1 に対して「当面は運行管理者をお願いする。」と口頭で告げ、X1は以後運行管理者としてY社 において運行管理業務に従事した。 X2は、平成29年5月1日、契約期間を1年とし、職種を乗務員とする有期労働契約をY社 との間で締結し、Y社で勤務していた。X2の有期労働契約は、平成30年5月1日、令和元年 5月1日及び令和2年5月1日に、それぞれ同一の内容で更新されたが、契約期間を通算した期 間が5年を超えて更新することはないとされており、X2は、このことについて採用時に説明を 受けていた。 2 Y社は、X1が運行管理業務に従事するようになってから乗務員による高速道路の使用が増加 し、その費用がかなり高額になっていることを気に掛けていたところ、乗務員の間にX1による 乗務指示の割り振りに対する不満がたまっているとの情報に接したことから、X1の運行管理者 としての適性に疑問を持ち、令和2年9月、X1と面談することとした。X1は、同面談におい て、乗務員の不満の原因は人員の不足とそれに起因する業務過多にあり、乗務員の労働条件を改 善し、離職を防止するためには、高速道路を使用させることは不可欠であるし、それにより輸送 事故のリスクも下がることとなる、と説明した。 Y社は、X2を含む乗務員数人とも面談したところ、前記の情報のとおり、多くの乗務員がX 1の乗務指示の割り振りに不満を持っていることが確認された。この面談の際、X2は、Y社に 対して、納入先からの帰路に、軽微ではあるが事故を起こしてしまい、それ以降、いつか大きな 事故を起こすかもしれないと不安で乗務に集中できないことがある、乗務員以外の仕事に代わる ことができるのであれば代わりたい旨、心情を吐露した。 3 Y社は、X1及びX2らとの面談の結果を踏まえ、X1には運行管理者としての適性が十分に 備わっているといえず、引き続き運行管理業務に従事させるのは不適当であると判断し、運行管 理者資格を有する者をほかに手配できる見通しがあったため、X1の業務を運行管理業務以外の 業務に変更することにした。また、X2についても、輸送事故への不安を持ったまま乗務員を続 けさせるのはリスク管理の点から問題であると判断した。Y社は、折から、倉庫部門の倉庫作業 員数名の有期労働契約が終了し、倉庫作業員が4名不足する見通しであったことから、X1とX 2を、倉庫部門において倉庫業務に就かせることとし、X1に対しては、Y社就業規則の規定に 基づき、令和2年10月1日付けで倉庫部門への配置転換を命じ、X2に対しては、倉庫作業員 への職種変更の申込みをし、X2は同日付けでこれに応じる意思表示をした。なお、X1が運行 管理業務を行っていた場所と倉庫部門の倉庫作業員として業務に従事することとなる倉庫は、Y 社の同一敷地内にあった。また、当該配置転換によりX1の基本給等の所定内賃金には変更はな かったが、倉庫部門では時間外労働がほとんどないため、その分の賃金の減少が見込まれた。 4 X1は、運行管理業務から離れることには不満があったものの、Y社から、倉庫部門において はその作業の管理も任せるとの説明を受けていたため、配置転換命令に従うこととしたのであっ たが、倉庫部門での勤務を実際に開始すると、作業の管理を行うためのシステムや設備が存在せ ず、仕分けや積込み等の作業しかなかった。また、倉庫部門の中で、正社員はX1ただ一人であ り、他の倉庫作業員は全て有期労働契約で業務に従事する者であった。X1は、それらの状況を 知ってモチベーションが下がり、肉体的疲労も強かったため、この配置転換に強い不満を抱くに 至った。 その一方で、X2は、乗務員であった時期に輸送した物品に関する豊富な知識があったことか ら、職種変更後の倉庫業務にやりがいを感じ、その知識をいかして同僚にも有効なアドバイスを するようになり、次第に周囲から頼られる存在となった。 5 令和3年4月、Y社は、X2に対し、同年5月1日からの有期労働契約書を提示した。同契約 書には、契約期間は同日から令和4年4月30日までの1年間であること、更新はないこと、職 種は倉庫作業員であることが記載されていた。X2は、職種変更により通算で更新可能な期間が リセットされると思い、同年5月以降も働けることを事務担当者に確認したところ、同事務担当 者は、「それは難しいと思いますが、1年先の話ですから、今後、確認されてはどうですか。」 と言い、それを聞いたX2は、確かに今確認する必要はないと思い、同契約書に署名した。 その後約1年が経過した令和4年4月、X2は、Y社に対して、労働契約の更新を求めたが、 Y社はこれを拒否した。X2とY社との間の労働契約は、同月30日をもって契約期間が満了し たが、翌5月1日時点で、倉庫作業員は2名不足していた。 (注) 運行管理者は、道路運送法及び貨物自動車運送事業法に基づき、事業用自動車の運転者の 乗務割の作成、休憩・睡眠施設の保守管理、運転者の指導監督、点呼による運転者の疲労・ 健康状態等の把握や安全運行の指示等、事業用自動車の運行の安全を確保するための運行管 理業務を行う専門職であり、その資格を得るには、1事業用自動車の運行管理に関する5年 以上の実務経験を有し、かつ、その間に所定の講習を5回以上受講していること等の要件を 満たすこと、又は2運行管理者試験に合格することが必要である。自動車運送事業者は、営 業所ごとに保有車両数に応じた一定の人数以上の運行管理者を選任しなければならない。 〔設 問〕 1.X1は、倉庫部門への配置転換は不当であり、運行管理業務に戻すべきであると主張している。こ のX1の見解の当否について、検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。 2.X2は、Y社の契約更新拒否は不当であり、令和4年5月1日以降もY社に雇用され続けてい ると考えている。このX2の見解の当否について、検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの 意見を述べなさい。