令和4年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第2問
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〔第2問〕(配点:50) 山脈を国境として隣接するA国とB国は、かつては類似の政治思想を持った友好国であり、共に 指導者の権限の強い権威主義体制の下にあった。 両国は良好な外交関係を維持していたが、古くに締結した二国間の犯罪人引渡条約もその表れの 一つであった。これによると、それぞれ互いの国に逃亡した犯罪人を引き渡すこと、相手国からの 引渡請求に対しては10日以内に自国の手続を開始することなどが規定されていた。また、軽微な 犯罪であっても引渡対象とされる一方で、例外として「政治犯についてはこの限りではない」との 規定が置かれ、何が「政治犯」に当たるかについての詳細な規定はなかった。同条約に基づいて、 それぞれの国に逃げた犯罪人は相手国へ引き渡されることが慣行となっていた。 ところが、10年ほど前にA国で革命が起き、権威主義体制から民主主義体制へと移行した。も ともとA国は歴史的に日本法の影響を強く受けてきた国であったが、取り分け民主主義政権誕生後 は日本の法整備支援を受けつつ、特に日本を意識した国家建設を開始した。例えば憲法でも日本と 同様の仕方で国際法を尊重することをうたい、国際法と国内法の関係についても、日本と同様の立 場を採っていた。 この革命を契機に、AB両国間のこれまでの友好的関係は崩れ、微妙な外交的緊張が続くことと なった。あるとき、A国はB国に逃亡したA国民たる犯罪人Xの引渡しを求めたが、B国は条約に 定める期間を大幅に経過しても自国内の手続を開始しなかった。B国は、度重なるA国による要請 を無視し続けていたが、最初の要請から半年ほど経ってから、履行する意向は全くないと連絡し、 条約は終了したと宣言した。B国は、その理由として、両国間の犯罪人引渡条約はAB両国が類似 の政治思想を持ったある種の共同体であったから締結したのであって、締結時における事情が根本 的に変化したのだと主張した。さらに、A国の古くからある特定の法律に、他国への犯罪人引渡し を禁止する条項があると指摘し、これを重大な条約違反だとも主張した。A国は対応に苦慮し、B 国が主張するようにB国が犯罪人引渡条約の終了を宣言することが可能か否かについて検討を開始 したが、A国政権内の混乱もあり、容易に結論は出なかった。 AB両国間の外交関係はこう着状態に陥った。そのような中、A国の革命成功に触発されてB国 でも民主化運動が進展していたが、中でも、いずれもB国民であるYとZの両名が主導して以降、 運動は一層過激なものとなった。両名は新聞その他の媒体を用いて当局の政策を痛烈に非難し、仲 間と共に広範な民主化デモを組織するなどした。B国当局は、YとZを体制維持のための障害とみ なすようになっていた。 ある時、B国警察が治安維持の一環としてYとZの身柄を拘束しようと試みたが、この情報が漏 れ、二人はA国に逃れようとした。Yが運転するトラックにZを乗せて国境を越えようとしたが、 途中でB国警官に見つかり、猛スピードで反対車線に出たり道路標識にぶつかったりするなどした。 激しい逃走劇の最中、Zはトラックから転落してしまい、混乱の中、Yのみが国境を越えてA国に 逃れた。Zも山間部の国境を抜けようとしたが、YがA国に逃れた後は厳しい検問が敷かれ、それ は困難となった。数日間逃げ回った後、Zは近くに飛行場があることに思い当たり、B国民間人が 多数搭乗するB国登録航空機を乗っ取り、パイロットを脅してA国へと向かわせた。しかし、航空 機がA国飛行場に到着後、Zは逃亡生活の疲れから昏倒して乗客達に取り押さえられ、あえなくA 国警察に逮捕されるに至った。ほぼ同時期に、先に逃げていたYも、A国警察に逮捕された。 この事態に至って、B国は、二国間の犯罪人引渡条約は依然として有効であると宣言して、従来 の態度を翻し、A国が求めていたXの引渡しに応ずる姿勢を示した上で、これと引換えにYとZの 自国への引渡しを強く求めた。Yについては逃走時のB国「交通法」違反での処罰、Zについては B国航空機不法奪取によるB国「公共交通危険取締法」違反での処罰を理由としており、最高刑は 前者が懲役4年、後者は懲役15年であった。A国においても、B国「交通法」、B国「公共交通 危険取締法」と同様の罰則が法律に定められており、その刑罰の重さはB国とほぼ同等であった。 また、B国は、これら以外の罪でYとZを罰しないことを公式に表明した。A国はB国が態度を変 更したことに戸惑ったが、犯罪人引渡条約を維持すること自体は国益にかなうとの政治的判断によ って、同条約の終了や運用停止を宣言しないことを決めた。 その後、A国内では、犯罪人引渡条約の有効性を前提としつつ、YとZの引渡しの可否を裁判所 で決するべく手続が進行した。A国裁判所の裁判官らにとって大きな困難となったのは、A国には 逃亡犯罪人に関する国内法が制定されていなかったことであった。また、以前B国が主張していた ように、特定の法律の一部に犯罪人引渡しを禁止する規定が存し、これがYとZの引渡しをも禁止 する趣旨を含み得ることもあり、関連する国際法の適用関係をめぐって議論が錯綜した。議論の末、 A国裁判所の裁判官らは、引渡しの可否について、日本の裁判所における同種の決定例に倣って判 断することとした。 なお、AB両国はいずれも、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)の当 事国である。また、犯罪人引渡しに関する国際条約としては、AB両国間の犯罪人引渡条約のみを 考えるものとする。 以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.Xの引渡しをめぐってB国がかつて行っていた犯罪人引渡条約を終了させる宣言は、認める ことができるか。また、A国は実際にはそうしなかったものの、B国が上記宣言を行ったとき に、むしろA国側から終了を宣言できたか。いずれも、条約法条約の終了原因に照らして論じ なさい。 2.特にA国国内法秩序における国際法の位置付けに言及しつつ、A国裁判所が引渡しを認めな いための立論をYとZの立場から論じなさい。 3.A国裁判所の判断の結果、YとZはB国に引き渡されることになるかについて論じなさい。 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]