令和4年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) A国に隣接するB国では軍参謀総長Xが軍事クーデターを起こしてB国大統領Yを解任しその身 柄を拘束した。その後、Xは最高軍事評議会を設置してその議長に就任し、B国の行政府、司法府 及び立法府の機能を停止させ全権を掌握した。この間、最高軍事評議会の指示を受けたB国軍がY を支持する政治団体Pを弾圧し、A国民を含むその主要メンバーの身柄を拘束して拷問を加えるな ど非人道的な行為を行った。この弾圧を逃れるため、多くのPのメンバーが隣国のA国に逃れたも のの、これを追ってB国軍は国境を越えA国に侵入し、A国内の国境付近に所在する建物への砲撃 を含む軍事活動を行った。 B国軍による侵入を受けたA国は武力によりB国軍を国境外に撃退する軍事作戦を実施し、その 状況を国際連合安全保障理事会に報告した。A国と友好関係にあるC国もB国軍を撃退するために 自国軍隊をA国に派遣することを計画したが、A国とC国との間では、相互の安全保障や軍事協力 に関する合意は締結されていなかった。 B国内で飲食業を営んでいたB国民のZは、このクーデターが発生する前から、B国内の治安が 悪化していたことを心配し、念のために自分の資産の一部をC国の市中銀行にあるZ名義の口座に 預けるとともに、B国籍を離脱して、一定額の資産がC国内に存在することでC国籍を取得できる 同国の国籍法に基づきC国籍を取得していた。軍事クーデター後、B国最高軍事評議会は、同国内 に所在する自国民の財産のほか外国人の財産も全て収用する命令を発し、B国内に所在するZの資 産も補償を受けることなくB国に収用された。そこで、C国はB国に対してZが受けた損害につい て賠償を請求したが、B国はC国の請求を拒否した。 その後、B国最高軍事評議会が内紛で崩壊してXはD国に逃亡し、Pを後ろ盾としてYが再び大 統領に就任した。A国は、自国民が拷問を受けたことを理由として自国国内法によりXを訴追する ため、D国にXの身柄の引渡しを求めたところ、D国はこのA国の要請を拒否し、自国の裁判所へ のXの訴追も行わなかった。C国もまたD国に対してXの身柄をA国に引き渡すよう求めたが、D 国はこれにも応じなかったため、C国はこの問題を仲裁に付託することをD国に提案した。しかし、 D国が半年以上もその提案を無視したことから、C国は、Xの身柄の引渡しを求めたA国の要請を D国が拒否し、D国自身の裁判所へのXの訴追も行わなかったことは、1984年の拷問及び他の 残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」と いう。)に違反すると主張して、同条約第30条第1項に基づき国際司法裁判所(以下「ICJ」 という。)に紛争を付託した。 また、Yが再び政権に就いた後、C国は、Zが受けた財産の損害について改めてB国に対して賠 償を請求したが、B国は、Zへの侵害行為は最高軍事評議会が行ったことであり、現在のY政権は 無関係であるとして、C国による損害賠償請求を拒否した。 A国、B国、C国及びD国の4国はいずれも国際連合加盟国であり、拷問等禁止条約にも留保を 付さずに締約国となっている。 以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国軍によるA国への軍事活動に対して、A国は自国軍隊の武力行使を正当化するために、 国際法上どのような主張を行わなければならないかについて論じなさい。また、C国がA国に 自国軍隊を単独で派遣し同国内での武力行使を正当化するためには、国際法上いかなる要件が 満たされなければならないかについても論じなさい。 2.C国は、D国の拷問等禁止条約違反の認定をICJに求めるためにいかなる主張が可能かに ついて論じなさい。 3.B国によりZが受けた損害に関して、Yの政権復帰後、C国はいかなる国際法上の根拠に基 づき損害賠償をB国に主張し得るかについて論じなさい。 【参考資料】拷問等禁止条約(抜粋) 第4条 1 締約国は、拷問に当たるすべての行為を自国の刑法上の犯罪とすることを確保する。拷問の未 遂についても同様とし、拷問の共謀又は拷問への加担に当たる行為についても同様とする。 2 締約国は、1の犯罪について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるように する。 第5条 1 締約国は、次の場合において前条の犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置 をとる。 (a) 犯罪が自国の管轄の下にある領域内で又は自国において登録された船舶若しくは航空機内 で行われる場合 (b) 容疑者が自国の国民である場合 (c) 自国が適当と認めるときは、被害者が自国の国民である場合 2 締約国は、容疑者が自国の管轄の下にある領域内に所在し、かつ、自国が1のいずれの締約国 に対しても第8条の規定による当該容疑者の引渡しを行わない場合において前条の犯罪について の自国の裁判権を設定するため、同様に、必要な措置をとる。 3 この条約は、国内法に従って行使される刑事裁判権を排除するものではない。 第7条 1 第4条の犯罪の容疑者がその管轄の下にある領域内で発見された締約国は、第5条の規定に該 当する場合において、当該容疑者を引き渡さないときは、訴追のため自国の権限のある当局に事 件を付託する。 2 1の当局は、自国の法令に規定する通常の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。第5 条2の規定に該当する場合における訴追及び有罪の言渡しに必要な証拠の基準は、同条1の規定 に該当する場合において適用される基準よりも緩やかなものであってはならない。 3 いずれの者も、自己につき第4条の犯罪のいずれかに関して訴訟手続がとられている場合には、 そのすべての段階において公正な取扱いを保障される。 第8条 1 第4条の犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、 相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に同条の犯罪を引渡犯罪として含めることを約 束する。 2~4 (略) 第30条 1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によって解決することができないもの は、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から6箇月以内に仲 裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判 所規程に従って国際司法裁判所に紛争を付託することができる。 2 各国は、この条約の署名若しくは批准又はこの条約への加入の際に、1の規定に拘束されない 旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において1 の規定に拘束されない。 3 2の規定に従って留保を付した締約国は、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもそ の留保を撤回することができる。