令和4年 司法試験 論文式試験 経済法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) Y社は、家庭用電化製品甲(以下、単に「甲」という。)の日本国内メーカーである。Y社のほ か、日本国内メーカーであるA社、B社及びC社が甲を製造販売している。甲に代替する製品は存 在しない。日本における甲の販売金額に基づく割合(シェア)は、Y社が約20パーセント、A社 が約30パーセント、B社及びC社がそれぞれ約25パーセントである。新たに甲の製造販売を計 画するものはいない。また、輸送費などの関係から甲の輸入品は存在せず、輸入される見込みもな い。限られた個人売買を除いて、中古品甲の取引は行われていない。 甲を使用するためには、交換部品乙(以下、単に「乙」という。)が必要である。甲とは異なり、 乙はそれほど高額ではなく、甲と乙の価格差は大きい。Y社製甲を使用するためには、取付け部分 の形状等から、Y社製甲に専用の乙が必要である。このようなY社製甲向け乙については、Y社が 製造販売する純正品のほか、甲を製造していないX社、D社及びE社が製造販売する非純正品があ る。 同様に、Y社以外の3社が製造販売する甲についても、それぞれ専用の乙が必要である。A社、 B社及びC社がそれぞれ自社製甲向け乙を製造販売するほか、X社、D社及びE社も、それぞれA 社、B社及びC社製甲向け乙を製造販売している。輸送費などの関係から乙の輸入品は存在しない。 Y社、A社、B社及びC社が自社製甲向け以外の乙を製造販売する計画はない。また、新たに非純 正品の乙の製造販売又は輸入を計画するものはいない。 日本におけるY社製甲向け乙の販売金額に基づく割合(シェア)は、Y社、すなわち純正品が約 40パーセントであり、X社、D社及びE社、すなわち非純正品が合計約60パーセントである。 Y社製甲向け以外の乙に関しても同様の状況にあり、乙全体で見た場合、X社、D社及びE社のシ ェアは合計約60パーセントとなっている。X社、D社及びE社のシェアは、甲のメーカーごとに 多少の差異はあるものの、それぞれほぼ同一(約20パーセント)である。 甲の買換え時期や乙の交換頻度は、ユーザーにより大きく異なる。甲の販売について、Y社、A 社、B社及びC社間の競争は活発である。Y社製甲向けを含めた乙の製造販売について、かつて純 正品が50パーセントを超えるシェアを有していたところ、近年、低価格を武器に、上記のとおり 非純正品が約60パーセントのシェアを有するようになっている。なお、甲の購入者は、甲の購入 時には、乙の交換費用や交換時期を十分に認識していない。また、甲の購入者は、乙の交換時には、 純正品又は非純正品を自ら選択して購入している。 ところで、C社製甲について、E社製乙を使用することによる数件の発火事故がメディアで報道 された。調査の結果、これらの原因はC社製甲とE社製乙の取付け部分の接触不良にあり、特にE 社製乙の設計上の問題であることが明らかとなった。しかし、E社がC社製甲向け乙の取付け部分 を調整することにより、同問題は解決された。また、C社製甲向けのE社製乙以外には、同様の問 題はないことが確認されている。 その後も、Y社製甲については、同様の発火事故や非純正品の乙の使用に起因する作動不具合が 報告されたことはなかったが、Y社は、新規に製造販売する自社製の甲及び乙に電子部品を新たに 取り付けることにより、自社製の乙が使用された場合にのみ自社製の甲が作動するようにした(以 下「本件行為」という。)。 Y社が本件行為を実行した結果、X社、D社及びE社共に、本件行為後に製造販売されたY社製 甲向けの乙の製造販売が以後不可能となった。X社は、本件行為前に、Y社製甲向け以外の乙の製 造設備について、その一部を近年シェアを伸ばしつつあったY社製甲向け乙の製造のために変更し たところであり、このため、本件行為後、X社の売上高は大きく減少することが予想された。また、 結局、販売できないY社製甲向け乙の在庫が生ずることが予想された。 X社は、Y社製甲向け乙の製造設備をそれ以外の乙の製造設備に変更することも資金的に困難で あることから、Y社に対して本件行為を取りやめるよう求めたが、Y社は、これを拒否している。 そこで、X社は、本件行為について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独 占禁止法」という。)に基づき、Y社に対する差止請求訴訟を提起することを検討している。 〔設 問〕 上記の差止請求について、以下のY社の主張に留意しつつ、独占禁止法上の問題点を検討しな さい。 Y社の主張:「当社は、甲の製造販売について約20パーセントのシェアを有するにすぎず、 独占禁止法違反行為を行い得る力を有していない。また、非純正品の安全性には疑問がある。製 品の安全性を確保することは何よりも重要であるはずだ。」