令和3年 司法試験 論文式試験 労働法 第2問
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〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 例】 1 合板等の製造等を業とするY社は,本社工場と3つの支工場を有し,その従業員の約8割がA 労働組合に加入していた。同組合には,本社工場に事務局を置く組合本部とは別に支工場ごとに 組合支部が置かれていたが,各支部は,同組合の下部機構であって,各支工場に特有の問題につ いては工場協議会を開催して工場側と折衝して処理するなどしていたものの,組合本部とは独立 してY社と団体交渉をしたり,労働協約を締結したりする権限はなかった。Xは,Y社F支工場 従業員であり,A労働組合F支部長である。 2 令和2年1月20日,Y社T支工場において原料木粉の粉塵爆発と思われる事故が発生し,従 業員1人が死亡したほか複数の者が負傷した。労働基準監督官等の調査によっても事故原因の特 定には至らなかったが,爆発の中心地点にあったM社製機械が着火源になった可能性が調査の過 程で指摘され,そのことがM社製の同型同年式の機械を使用していたF支工場従業員を著しく動 揺させた。その結果,生命の危険があるなどとして同機械による作業を拒否する者が現れ,一部 の従業員が繁忙期を乗り越えるためにやむなく集中的にこの作業を受け持つという状況が生じた。 同年2月3日,F支工場製造部長であるBは,この状況を解消すべく,F支工場の工場長であ るWに対し,「安心して働ける環境の回復のため,M社製機械を全て廃棄し,L社製の同等品を 導入すべきである」旨,意見を具申した。Bは,かつて組合員であったが,創業者である代表取 締役Zに管理能力を買われて現職に昇進し,人事権を有する管理職となるに伴い,非組合員とな っていた。 Wは,Zの三男であって長く経理部門の要職を務め,工場勤務の経験はないものの,製造部門 の経費率が特に高いF支工場の経営見直しのため,Zの判断で工場長に任命されていた。Wは, M社製機械を事故の原因とする科学的根拠が乏しい中で「安心」のために設備更新をするという コスト意識を欠く提案をするBに憤りを覚え,Bに「お前らは,ありもしない亡霊を仕立てて, 金がかかることばかり考える。機械にケチをつける暇があったら危険予測活動を徹底しろ。親父 はかわいがっていたようだが,お前はもうだめだな。」と言って罵倒した。 かねてWの工場運営方針に不満を覚えていたBは,激高してWの胸ぐらにつかみかかり,周囲 にいた製造部の従業員に制止されながらもなおWに罵声を浴びせた。Wは,暴行についての謝罪 と機械の更新をしない方針に従うことをBに指示したが,Bは返事をしなかった。Wから事態の 報告を受けたY社は,Bには後記の就業規則第59条第5号及び第6号の懲戒事由があり,その 情状は極めて重いとし,Bに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,同年3月2日,Bに対して 同年4月2日付けで懲戒解雇する旨を予告し,同日,同人を懲戒解雇した。 3 Xは,Bの懲戒解雇は,人命を軽視するWの策動による不当なものであるというにとどまらず, 組合員がどれだけ会社の発展に身を捧げ,管理職に栄進したとしても,創業家の一存で解雇され 得ることを示すものであり,放置すれば組合員の将来に希望はないと考えた。そこでXは,F支 部の幹部数人と協議の上,Bの懲戒解雇の撤回を本社に上申するようWに要求し,これが拒否さ れた場合にはF支部組合員15人(製造ライン従業員の約8割)が示威的に一斉に早退し,罷業 に入るという計画を立てた。 Xは,この計画を組合本部のP書記長に電話で伝達したが,Pは,Bの懲戒解雇に対しては厳 重に抗議すべきであるとしつつ,要求が拒否された場合に組合員が一斉に早退して罷業する行動 にまで及ぶのは時期尚早であり,相当ではないと返答した。しかしながら,Xは,交渉が長期化 すれば不当な前例が既成事実化しかねないことを懸念し,組合本部の了承を得ないまま,F支部 組合員にはそのことを秘して,計画を実行に移すこととした。 4 同年4月13日午前10時頃,Xは,F支部組合員10人を引き連れて工場長室前に赴き,同 室の扉を激しくノックして「工場長!B部長の解雇の件でお願いしたいことがある。」と叫んだ。 Wは,管理職であったBの懲戒解雇について組合と話すことはないと考え,返事もせずに無視し た。Xは,さらに激しくノックしながら,「工場長!組合としてB部長の懲戒解雇の撤回を要求 する。聞こえないのか。現場を分かっているのはあんたじゃない。B部長だ。そのB部長をクビ にして俺たちを爆弾のそばで働かせ,浮いた経費で飲む洋酒はそんなにうまいか!」と大声で言 い放った。Xは,Wがなおも返事をしないことから,同行した組合員に「この野郎は俺たちが大 人しく作業をしているうちは動く気はない。こんなところでワイワイ言っても無駄だ。聞く気が ないなら俺たちも作業を放棄せざるを得ない。B部長が戻り,怯えて働かずに済むようになるま で,組合は断固戦う。」などと言ってあおり,工場長室前を立ち去った。F支部組合員は,支部 長の指揮によるものである以上本部が了解した方針であるものと誤信しつつも,Y社の対応やW の態度に憤りを覚え,Xに賛同し,同日午前11時30分頃,全員がXと共に早退届を提出して F支工場から立ち去った。 同日から始まった同盟罷業は,組合本部の仲介により要求事項の実現を見ないまま同月21日 に終了したが,その間,F支工場の製造部門の操業が完全に停止したため,Y社は,生産予定で あった全製品について納期を守ることができず,その後取引先から債務不履行責任を問われるな どの事態となった。 また,Xは,罷業期間中,世論を味方に付けるため,F支部名義の情報宣伝活動用アカウント でインターネット上に「創業家の横暴・人命を無視した搾取の実態」などと題したY社経営陣を 批判する投稿をしたり,Y社製品の不買を呼び掛ける投稿をしたりした。これらの投稿の大部分 は,事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり,それがインターネット上で注目を 集めた結果,これに呼応してY社を批判する匿名の投稿が爆発的に増加するとともに,これらの 投稿の内容や騒動の経過が全国放送のテレビ番組で取り上げられ,それが更に反響を拡大させ, 本社に抗議の電話が殺到するなどした。 5 Y社は,X自身が罷業期間中一切出勤せず,組合本部の了解も得ずにF支部組合員を扇動し, 罷業させた行為は就業規則第59条第1号,第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,ま た,Y社を誹謗中傷する,事実に基づかない内容の投稿を拡散させ,本社への抗議の電話を殺到 させた行為は同条第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,それぞれ該当し,いずれも情 状は極めて重いとし,Xに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,同年6月1日,Xに対して同 年7月3日付けで懲戒解雇する旨を予告し,同日,同人を懲戒解雇した。 【Y社就業規則(抜粋)】 第59条 従業員が次のいずれかに該当するときは,情状に応じ,訓戒,けん責,減給,出勤停止, 降格,諭旨退職,懲戒解雇に処する。 1 正当な理由なく,無断で3日以上欠勤し,出勤の督促に応じなかったとき。 2,3 (略) 4 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。 5 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い,その犯罪事実が明らかとな ったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。 6 勤務怠慢,素行不良又は会社の秩序又は風紀を乱したとき。 7 他の従業員の業務を妨害したとき。 8 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉・信用を傷つけ,業務に重大 な悪影響を及ぼすような行為があったとき。 9 その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。 第60条 前条の規定により懲戒を行うときは,当該従業員に対し,事前に弁明の機会を与える。 〔設 問〕 Y社がXに対して行った懲戒解雇は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの見解を 述べなさい。 論文式試験問題集[環 境 法]
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