令和3年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
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〔第1問〕(配点:50) A国とB国は,南米大陸に所在して隣り合う2つの国である。A国の一部を構成し,B国との国 境に接して位置するP県では,A国全体の人口の約8割を占めるα民族とは異なるβ民族がP県人 口の約9割を占めていることから,β民族が中心となって自治政府を形成しP県の統治を約50年 にわたり行っていた。その間,P県ではA国にとって主要な輸出品である石油及び天然ガスが産出 されてきたが,その生産量,石油製品の卸価格及び天然ガスの卸価格等はP県自治政府ではなくA 国政府が決定している。β民族の多くは,これら天然資源の産出によるA国財政への貢献にもかか わらず,P県自治政府に配分される予算については人口一人当たりの額がA国内の他の県と比較す ると半分に満たないことに不満を持ち,A国政府にP県内の資源が搾取されていると考えた住民の 一部は「P国独立運動」を立ち上げ,「P国」の独立に向けて武装闘争を行っていた。こうした不 満を背景に,P県自治政府は,予算配分の不平等が民族差別に起因するとして,A国政府に再三再 四是正を求めてきた。さらにP県自治政府は,A国全体の人口の約2割を占めるβ民族の意思を国 政レベルに反映させるため,A国の議会においてβ民族が恒常的にかつ公正に代表されるべきこと も主張してきた。また,P県自治政府は,A国の議会選挙ではこれまで少数派のβ民族の議員が当 選することがほとんどなかった現状を改め,具体的な改革案として,同議会の議員定員の2割に当 たる20名をβ民族の議員枠として確保するようA国政府に申し入れてきたのである。 しかし,こうした要求や申入れは,民族差別の存在自体を否定するA国政府に聴き入れられるこ とはなく,状況が改善されることもなかった。さらにA国政府が「P国独立運動」の指導者を逮捕 する行動に出たところ,P県の主要都市はA国政府を批判する群衆で騒乱状態となったため,A国 政府は,P県一帯に非常事態宣言を発してP県の自治を終了させるとともに,治安部隊によりデモ に参加する民衆を徹底的に取り締まった。このA国政府の弾圧は1年以上続き,P県ではβ民族を 中心に200名以上の死傷者が生じたほか,身柄を拘束された者の数は数千名以上に上った。こう した状況を前にして,P県自治政府は,A国からの独立か,それともA国に残るか,そのいずれを 選択するかについて住民投票を行うことに決め,2015年3月にこれを実施した。その結果,約 9割のP県住民がA国からの独立に賛成したことから,投票結果が発表されて約1か月後の201 5年5月1日に,P県自治政府は「P国」としてA国からの独立を宣言した。 A国政府はP県による独立宣言に対して嫌悪感を示し,「P国」を国家として承認することなく, 「P県は依然としてA国の領域の一部である。」との声明を公表した。他方,B国は,「P国」が 独立を宣言すると,その2週間後に,「P国」との間で互いの首都に大使館を設置し外交使節を派 遣した。これに対して,A国は,「今回のB国による行為はA国への内政干渉である。」としてB 国を非難した。 「P国」の独立宣言でA国内が騒然とする中,A国籍の甲がA国警察の追及を避けるために在A 国のB国大使館に逃げ込んだ。甲は,「P国独立運動」の指導者の一人で,A国内においてA国政 府の施設やA国政府を支援する企業の建物を爆破しA国政府要人を暗殺するなどの武装闘争に従事 していた。A国は,甲につきA国刑法上の殺人罪等の容疑で指名手配をしており,甲が在A国のB 国大使館に逃げ込んだ情報をつかんで,B国に甲の引渡しを正式に請求した。ところがB国はこの 請求に何ら応答せず,また甲をB国大使館から強制的に退去させることもなかった。このため,A 国は,B国大使館の周囲でそれまで行っていた警備活動を放棄するとともに,A国の民間警備会社 乙に対して,その職員5名をB国大使館に差し向けるよう指示した。これら職員は,在A国のB国 大使の許可なくB国大使館内に侵入して甲の身柄を確保することを試みたが,その試みはB国大使 館の警備職員によって阻止された。その後,B国は,この事件がA国の行為に起因するものである としてA国に対して外交上の抗議を行ったが,A国は問題のB国大使館への侵入行為がA国による 行為であることを否定した。 南米諸国であるA国及びB国は,外交関係に関するウィーン条約について,いずれもその効力発 生日(1964年4月24日)から当事国となっているが,犯罪人引渡条約は締結していない。 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国の行為は内政干渉だとして非難するA国に対して,これに反論するB国の立場とその国 際法上の根拠について論じなさい。 2.B国は,甲を在A国のB国大使館に滞在させたままにしておくことについて国際法上の義務 に違反せず,またA国に甲を引き渡す国際法上の義務を負わないという立場から,これらの主 張を正当化するためにいかなる議論が可能かについて論じなさい。 3.民間警備会社乙の職員による在A国のB国大使館への侵入行為について,B国はA国の国家 責任を追及するためにいかなる主張が可能かについて論じなさい。