令和3年 司法試験 論文式試験 倒産法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) 次の【事例】について,以下の設問に答えなさい。 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。)は,家具の卸売を業とする株式会社である。A社は,平 成元年の設立以来,地元の地方銀行であるB銀行を主要な取引銀行として,当座預金口座を開設 するとともに,しばしば運転資金の融資や手形の割引等に応じてもらってきた。また,A社は, B銀行のほか,C信用金庫及びD銀行にもそれぞれ普通預金口座を開設し,取引先に送付する請 求書にこれらの口座を記載して,取引先の選択により,これらのいずれかの口座に振込送金させ る方法により決済を行っていた。 A社の業績は,創業以来順調に発展してきたが,平成20年頃になると,製造業者から直接仕 入れをする小売業者が増加し,卸売業の役割が相対的に低下するとともに,家具の製造から販売 まで一手に行う大規模家具小売業者の進出等もあり,次第にA社の業績は悪化し,平成25年以 降は赤字決算となる年度もあった。 A社は製造業者から仕入れた家具を保管するための自社倉庫(以下「本件倉庫」という。)を 所有していたが,令和元年9月に台風の影響により屋根が大きく破損し,仕入れた家具の多くに 水濡れの被害が生じた。本件倉庫については,屋根の破損のみならず,建物全体が大きな損傷を 受けたため,抜本的な補修ないし建て替えが必要な状況であった。そこで,A社は,本件倉庫を 建て替えることとし,同年10月10日,E建設との間で,倉庫建設請負契約(以下「本件請負 契約」という。)を締結した。本件請負契約においては,請負代金は1億5000万円とされ, A社がE建設に対して,契約成立時に5000万円を支払い,残代金は完成した倉庫の引渡しと 引換えに支払うこと,E建設は,令和2年6月30日までに倉庫を完成させてA社に引渡しをす ることを合意した。A社は,本件請負契約の前払金を支払うため,B銀行から5000万円の融 資を受けて,E建設に支払った。E建設による倉庫の建設は順調に進み,同年5月31日までに は倉庫は完成したが,A社への引渡しはまだされていない。 また,台風被害により水濡れしてしまった在庫商品について,比較的損害の程度が軽かったも のは,以前から取引があった小売業者に割引価格で売却するなどにより処分することができたが, 程度の悪いものについては買取り先が見つからないまま,令和2年の春を迎えることとなった。 この時点でA社の資金繰りはかなり苦しくなってきているとともに,商品の保管場所の問題もあ り,同業者からの紹介により,中古家具販売業者であるF商店に残りの水濡れした在庫商品一式 (以下「本件商品」という。)を300万円で一括売却することとした。この売買契約(以下 「本件売買契約」という。)は同年4月15日に締結され,本件売買契約によれば,同年5月末 日までにF商店の負担により本件商品を引き取り,商品の引取り後10日以内に,B銀行,C信 用金庫又はD銀行に開設したA社のいずれかの口座に代金300万円を振り込む方法で支払うこ ととされた。 在庫商品の水濡れによる損失に加え,本件倉庫の建て替え工事の間,商品を保管するために借 り上げた倉庫の賃料の支払等の支出が重なったこともあり,令和2年4月頃には,A社の資金繰 りはかなり苦しい状況に陥っていた。そこで,A社は当面の事業資金3000万円の融資をB銀 行に申し込んだが,既に本件請負契約の前払金5000万円について融資を受けていたため,B 銀行からは追加の融資を受けることができなかった。そのため,A社は,C信用金庫及びD銀行 にも緊急の融資を求めたが,主要な取引銀行であるB銀行が融資を見送っていることもあり,両 金融機関とも融資については二の足を踏み,結局融資を受けることができないまま,仕入先であ るG木工への買掛代金の支払期日である同年5月31日を徒過してしまった。翌6月1日,買掛 代金の振込みがないことを知ったG木工からの問合せを受け,A社の経理担当者は,事務手続上 のミスで支払が遅れているが,数日のうちには必ず振り込むとの返答をしたものの,実際にはG 木工への支払はもとより,他の仕入先に対する買掛代金の調達のみならず,取引金融機関からの 借入金の弁済のめども立たない状況であった。 そこで,A社の経営陣は,顧問弁護士のHに連絡をし,令和2年6月3日にA社の会議室にお いて今後の方針について協議を行った結果,主な取引先や取引金融機関に対して,A社は近日中 にH弁護士を申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり,債務の支払についても それまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。)を,翌週の同月8日に発送するこ とを決めた。ただし,この方針については,混乱を避けるため,本件通知の発送までは,H弁護 士と協議に参加した経営陣限りにとどめておくこととした。 本件通知は,予定どおり,令和2年6月8日に,H弁護士名義で発送され,翌9日に,B銀行 を始めとする取引金融機関及び主な取引先に到達した。その後,A社は,H弁護士の下で破産手 続開始の申立ての準備を進め,同月15日にI地方裁判所に破産手続開始の申立てをし,同月2 5日にA社について破産手続開始の決定がされ,破産管財人Xが選任された。 〔設 問〕 以下の1から3については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.破産管財人Xは,破産財団にとって建て替えられた倉庫は不要であると考え,E建設に対し, 本件請負契約を解除する旨の通知をした。仮に,この解除が認められるとした場合,A社の破 産手続において,支払済み及び未払の請負代金がどのように扱われることになるか,説明しな さい。 2.F商店は,本件売買契約に従い,令和2年5月28日までに本件商品を引き取り,同年6月 5日に,B銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り込んだとする。破産 手続の開始後に破産管財人XがB銀行に対してF商店から振り込まれた300万円の引き出し を求めた場合において,B銀行は,本件請負契約の前払金として融資した5000万円と対当 額について相殺するとして,300万円の支払請求を拒絶することができるか,論じなさい。 3.前記2において,F商店がB銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り 込んだのが令和2年6月16日であり,その時点では,B銀行は,前日の同月15日にA社に ついて破産手続開始の申立てがされていたことを知らなかった場合,B銀行は,本件請負契約 の前払金として融資した5000万円と対当額について相殺するとして,300万円の支払請 求を拒絶することができるか,論じなさい。