令和2年 司法試験 論文式試験 知的財産法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 医療機器メーカーX社は,カプセル内視鏡Lを開発した。カプセル内視鏡とは,小型カメラ,ラ イト,モーターなどを内蔵したカプセル状の内視鏡であり,患者が飲み込むと消化器官の内部を順 次撮影し,画像を体外に送信した後,肛門から自然排出されるものである。光ファイバーなどで体 外とつながれた従来の内視鏡(いわゆる胃カメラなど)よりも患者への負担が少なく,これまで経 口挿入が困難であった小腸も容易に撮影できるという利点がある。 以上の事実関係を前提として,以下の設問1ないし3に答えなさい。なお,設問1ないし3及び 設問1の(1)と(2)はそれぞれ独立したものであり,相互に関係はないものとする。 〔設 問〕 1. Xは,カプセル内視鏡Lの発明について,社内の職務発明規程に基づき特許を受ける権利を 原始取得した上で特許出願をし,さらに査定前に同権利をY社に有償で譲渡した。Yは,特許 を受ける権利を譲り受けてから,補正や出願の変更をしていない。 (1) Yが査定を受ける前に,XからYへの上記譲渡契約は,Yによる代金の不払により,債務 不履行を理由に解除された。特許庁がまだ査定をしていない段階で,Xは,どのような手段 でYから特許出願人としての地位を回復することができるか。 (2) Yに対して特許権が付与された後に,Yは更にZ社に特許権を譲渡した。その後,ZがL を製造販売して利益を得ていたところ,XからYへの特許を受ける権利の譲渡契約は,Yに よる代金の不払により,債務不履行を理由に解除された。ここで,Zは,Yから特許権を譲 り受ける時点で,YのXに対する債務不履行の事実について善意であった。Xは,Zに対し て,訴訟上どのような請求が可能か。異なる見解にも留意しつつ論じなさい。 2. Xは,さらに,カプセル内視鏡Lを用いて小腸の疾病αの発症の有無を診断する方法Mを開 発した。この診断方法Mを用いると,疾病αの発症を20%の確率で発見できるが,疾病αの 初期徴候は患者によって多様であるため,残る80%についてはなお発見できない。また,診 断方法Mを用いると,下痢などの副作用が必ず生じることも分かっている。 この診断方法Mは,特許法上,「発明」に当たるか。また,当該方法は,特許法上,「産業 上利用することができる」ものに当たるか。 3. Xは,カプセル内視鏡Lを製造販売しているところ,このLには,撮影した消化器官内部の 画像を効率よく逐次に体外へ送信する部品が内蔵されている。また,この部品には,通信機器 メーカーW社が特許権Pを有するデータ送信装置の発明が用いられている。 ここで,Lは,医療機器における通信システムQの普及を目的とした日本の民間標準化団体 Rが策定した通信規格Sに準拠した製品である。また,Wは,Rの会員として,Rの知的財産 権ポリシーに従い,Rに対して,特許権Pが通信規格Sの必須特許である旨を通知するととも に,Pについて「公正,合理的,かつ非差別的な条件」(本件条件)で取消不能なライセンス を誰にでも許諾する用意がある旨の宣言(本件宣言)をしていた。 Wは,Xに対して,特許権Pに基づき,Lの製造販売の差止めと損害賠償をそれぞれ請求す ることができるか。