令和2年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,40:25:35〕) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行され ている法令に基づいて答えなさい。 I 【事実】 1.Aは,甲土地上に乙建物を所有して居住していたが,令和2年5月20日,Bとの間で, 甲土地及び乙建物をBに売却する契約(以下「契約1」という。)を締結した。Bは乙建物内 でチェロの練習をする予定であったため,AB間において,乙建物が特に優れた防音性能を 備えた物件であることが合意の内容とされ,代金額が6000万円と定められた。 2.契約1において,Bは,契約時に1000万円を支払い,残額を甲土地及び乙建物の引渡 しがされた日から1か月以内に支払うこと,残代金の完済後直ちに甲土地及び乙建物につき AからBへの所有権移転登記手続を行うこととされた。 3.Aは,令和2年7月25日,契約1に基づく残代金債権(5000万円)をCに代金45 00万円で売却し,Cへの債権譲渡を通知する旨の内容証明郵便が同月30日にBに到達し た。 4.令和2年9月25日,Bは甲土地及び乙建物の引渡しを受けた。その後,Bは,昼間に乙 建物内でチェロの練習をしていたところ,近隣住民から,音が漏れ聞こえてうるさいと苦情 を申し立てられ,その際,以前Aとの間でも同様のトラブルがあったと言われた。 5.令和2年10月10日,Bが業者に点検させたところ,乙建物が契約1において合意され た防音性能を備えていないことが判明した。 6.そこで,Bは,Aに対し,契約1で定められた防音性能を乙建物に備えさせるための工事 に要する費用の見積書を提示し,費用を負担するか,工事を自ら手配するかを選択して履行 するよう求めたが,Aからの応答はない。 7.令和2年10月30日,Cは,Bに対して契約1の残代金5000万円の支払を求めた。 〔設問1〕 【事実】1から7までを前提として,次の問いに答えなさい。 Bは,乙建物に住み続けることを前提に,上記【事実】5の防音性能の不備を理由としてCへ の支払額を少なくしたいと考えている。このとき,契約1に基づくBの主張として考えられるもの を複数挙げ,それぞれその主張が認められるかを検討しなさい。 II 【事実】1から7までに加え,以下の【事実】8から12までの経緯があった。なお,本件にお ける土地の位置関係は別紙図面のとおりである。 【事実】 8.ところで,甲土地は,鉄道駅から徒歩圏内の住宅地にある。甲土地は,かつて,その隣地 である丙土地と一筆の土地でありDが所有していたが,分割されて袋地になり,DからAに 売却されていた。 9.Aから甲土地を購入したBは,丙土地の端のa部分(幅1メートル)を公道に至るための 徒歩での通行路として利用していた。その後,Bは,自家用車の購入を計画したが,a部分 の道幅は車両の通行には十分でなかったため,令和3年1月10日,Dとの間で,丙土地の a部分及びこれに隣接するb部分(幅2メートル。以下,a部分とb部分を合わせて「c部 分」という。)につき,通行を目的とする地役権を甲土地のために設定すること,Bは毎年1 月に2万円をDに支払うことに合意した(以下「契約2」という。)。Bは,同日,Dに対し て2万円を支払い,以後,c部分を徒歩及び自家用車で通行している。 10.令和4年以降,Bは,毎年2万円の支払をしなくなった。 11.令和6年3月1日,Bが毎年2万円を支払わないのであればc部分を花壇として利用した いと考えたDは,Bに支払を催告し,1週間以内に支払わなければ契約2を解除する旨の意 思表示をしたが,同月8日を経過しても,Bは支払に応じなかった。 12.Bは,「アc部分,少なくともそのうちのa部分については,Bは,Dによる地役権の設定 がなくても通行する権利がある。」,「仮に,地役権の設定がなければc部分を通行できないと しても,Dは契約2を解除することはできない。すなわち,確かに,Bは毎年2万円を支払 っていないが,イ地役権設定契約によって設定者が債務を負うことはなく,Dは契約2によ って債務を負っていない以上,解除をすることはできない。」と述べている。 これに対して,Dは,Bが毎年2万円を支払わない以上,ウ契約2によってDが債務を負 っていなかったとしても,Dは契約2を解除することができるはずであるし,また,そもそ も地役権設定契約によって設定者は債務を負い,したがって,契約2によってDも債務を負 っていたと述べている。 〔設問2〕 【事実】8から12までを前提として,以下の(1)及び(2)に答えなさい。 (1) 【事実】12の下線部アのBの発言は,正当であると認められるか。a部分及びc部分のそれぞ れにつき,検討しなさい。 (2) 【事実】12の下線部イ及びウにつき,B及びDが地役権設定契約の性質をどう捉え,それを踏 まえて契約2の債権債務関係をどのように分析し,また,解除の制度趣旨についてどのような 理解を基礎としているのかをそれぞれ発言者ごとに明らかにした上で,Dが契約2を解除する ことができるかを検討しなさい。 III 【事実】1から12までに加え,以下の【事実】13から21までの経緯があった。 【事実】 13.Bは,甲土地に隣接する丁土地を購入することで,車の通行の問題を解決しようと考えた。 14.丁土地はEの所有地であり,その旨の登記がされていた。 15.Eは長期入院加療中であったため,Eの財産の管理は,Eから依頼があったわけではない が,事実上,Eの妻FがEの姉Gに相談して行っていた。Bから丁土地の売買の申入れを受 けたFは,丁土地はEが相続により取得したが誰も利用しておらず,また,Eの医療費が今 後更に必要なことから,前向きに考え,Gに相談した。Gは,売却に賛成し,もし売却する ならGの事業の資金のために売却金の一部を使わせてほしいと,Fに申し入れた。 16.Eには子がなく,Eの親族はFとGのみであり,EもFも日頃からGを頼りにしていた。 そこで,Fは,Eの医療費に充てるほか,代金の一部をGの事業の資金に充てるために,丁 土地を売却することにした。 17.令和6年7月10日,Bは,Eから丁土地を2000万円で購入する契約(以下「契約3」 という。)を締結したが,この契約は,FがEの代理人として締結したものであり,その締結 の場にはFの求めに応じてGも同席した。Fは,Eの委任状及び印鑑登録証明書をBに示し たが,実は,FはEに対して丁土地の売却のことを知らせておらず,丁土地に関してEから Fに代理権が授与されたことはなく,委任状は自宅に保管されていたEの実印をFが勝手に 利用して作成したものであり,Eの印鑑登録証明書はFが取り寄せたものであった。Fは, Bに対し,Eが入院加療中であって医療費が必要であること,丁土地の売却にはEの親族の 了解も得ていることを話し,Bは,夫が入院加療中であるから妻が取引をするのは通常のこ とと考え,それ以上にEに確認するなどの措置は採らなかった。 18.契約3において,Bは契約時に400万円を支払うこと,残代金の支払及び丁土地の所有 権移転登記手続は令和6年9月20日に行うこととされた。Bは,これに従ってFに400 万円を交付し,Fは,このうち200万円をEの医療費に備えて取り置き,残る200万円 をGの指定した銀行口座に振り込んだ。 19.令和6年7月24日,Eは,容態が急変して契約3について知らずに死亡した。最期まで Eの判断力に衰えは見られなかった。その後,Fは相続を放棄し,Gは,同年8月24日, E名義の預金口座を解約して全額の払戻しを受けて,Eの医療費を弁済した。 20.令和6年9月13日,Gは不動産業者から丁土地を2600万円で売ってほしい旨の打診 を受けた。 21.令和6年9月20日,Bは,Gに対し,残代金を提供した上,契約3に基づき丁土地の所 有権移転登記手続を求めたが,Gはこれを拒絶した。 〔設問3〕 【事実】13から21までを前提として,次の問いに答えなさい。 契約3に基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められるか。FがEの配偶者であ ることを踏まえて,検討しなさい。 (別紙図面) 公道 b部分 a部分 私有地 甲土地 丙土地 丁土地 私有地 c部分 私有地 公道